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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

淡路島移転でさらなる成長目指す 南部靖之 パソナグループ代表

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 平岡 仁、兵庫県淡路市の観光施設「クラフトサーカス」で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 平岡 仁、兵庫県淡路市の観光施設「クラフトサーカス」で

淡路島移転でさらなる成長目指す

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2020年9月に本社機能の一部を兵庫県の淡路島に移すと発表してからおよそ半年が経過しました。進捗(しんちょく)は。

南部 昨年11月末の段階で約120人が淡路島に赴任しました。24年5月までに約1200人が異動する計画なので、これからが本番です。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が再び発令されたことで、今は少し動きが止まっています。(2021年の経営者)

── 赴任した社員の声は聞きましたか。

南部 私の前では悪いことは言わないでしょう(笑)。しかし「これから赤ちゃんが生まれる」などの理由で、淡路島への転勤を希望する社員は多いです。独身のうちは東京が良いと思っていても、子供を産んで育てるとなると環境に恵まれた地域で働きたいと考えるのは当然です。ここは神戸にも近く、大きな病院もあるので安心です。淡路島で仕事をすることはリゾート感覚だという声も聞きました。

── 地方に本格的な拠点を構える利点をどのように考えますか。

南部 移転を発表してから、企業や自治体など約250社・団体が相談に来ました。「経費が下がったでしょう」とよく聞かれますが、勘違いされては困りますと返しています。確かに現在本社がある東京・大手町と比べれば、淡路島の賃料は10分の1以下です。しかしここには、オフィスや社員が住む住宅はありません。そのため、これから建てていかなければいけません。先行投資はとてもかかります。

── 費用をかけてでも移転するのはなぜですか。

南部 BCP(事業継続計画)の観点からです。会社は一時的に利益を稼ぐベストセラーではなく、ロングセラーでないといけません。今後国内で、自然災害が起きないということはありえません。そのため本社機能を分散し「バックオフィス」をつくっておかないといけません。

── 逆にデメリットは。

南部 営業の本体は動かしませんし、デメリットは今のところほとんど感じていません。強いて挙げれば、携帯電話やインターネットなど通信インフラの問題でしょうか。また島内には鉄道はないので、鉄道に代わる交通手段が必要です。地元の自治体には、海を走る「シータクシー」など、いろいろやりましょうと呼びかけています。

きっかけは農業

 パソナグループによる淡路島の事業は、08年に就農を支援する農場をつくったことがきっかけ。12年には廃校になった小学校を改装して地元食材を扱うレストランを開設した。17年にテーマパークの「ニジゲンノモリ」をオープン。雇用創出や地域活性化の取り組みを進める。

── 淡路島を選んだのはなぜですか。

南部 移転とは関係なく、ずいぶん前から淡路島で事業を展開しています。私は兵庫県出身ですので、なじみがあったのは確かです。農業を始める際に兵庫県に相談したところ、淡路島を紹介してもらいました。実際に活動を始めてみたら、ここが好きになりました。

── パソナは人材派遣大手という印象ですが、人材派遣事業の売り上げ構成比は5割以下ですね。

南部 人材派遣事業に携わっているのは、新入社員でいえば約200人のうち60人程度です。人材サービスは事業会社「パソナ」社長の中尾(慎太郎)が主に担っています。新型コロナで企業の求人数が減った影響で、一時的に落ち込んだものの、全体ではメディカル分野など好調な事業で補いました。経験豊富な専門家やウェブに強いフリーランスなどのプロフェッショナル人材と企業をつないで業務委託契約を結んでもらう新しい事業にも取り組んでいます。

── 派遣が広がったことで日本の雇用が不安定化したとの批判もあります。

南部 45年前に主婦の再就職を応援したいと、「同一労働同一賃金」を掲げてパソナ(当時のテンポラリーセンター)を立ち上げました。1日4時間の労働でも、正社員と同じ賃金や待遇を得ることを目指しました。問題なのは、本人の意志に反してパート・アルバイトで働かざるを得ない人がいまだに多くいることです。どのような雇用形態を選択しても、公正な待遇と、安心して働き続けられる環境をつくるべきです。パソナの派遣社員は社会保険もあり、福利厚生もしっかり整えています。

── コロナ禍で就職先が決まっていない大学生ら約1000人を受け入れる予定です。なぜですか。

南部 航空会社や観光業界を目指していた学生にとっては就職先がない状況です。パソナの契約社員として最長2年間、淡路島などで働きながらビジネスの基礎を学ぶことができます。2年後はパソナに残ってもよいし、ほかへ行っても構いません。「ギャップイヤー」を作らないことが狙いです。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A ピンチは一つもありません。

Q 「好きな本」は

A 仏教学者・鈴木大拙(だいせつ)の『禅』です。

Q 休日の過ごし方

A 休みはありません。1日を6時間ごとに四つに区切って生活しています。まずは睡眠。二つ目に情報のインプット。三つ目は講演などアウトプットです。残りの時間でタップダンスなどを楽しみます。


 ■人物略歴

南部靖之(なんぶ・やすゆき)

 1952年生まれ、兵庫県立星陵高校、関西大学工学部卒。同大卒業直前の76年2月に人材派遣会社・テンポラリーセンターを設立。93年にパソナに社名変更した。2007年に持ち株会社パソナグループを設立した。兵庫県出身、69歳。


事業内容:人材派遣、人材紹介、キャリア支援、BPO(業務の外部委託)サービス、地方創生事業など

本社所在地:東京都千代田区

創業:1976年2月

資本金:50億円

従業員数:9657人(20年5月末、連結)

業績(20年5月期、連結)

 売上高:3249億円

 営業利益:105億円

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