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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

「厚底」対抗のランニングシューズ開発 広田康人 アシックス社長

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 山本 仁志、神戸市中央区の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 山本 仁志、神戸市中央区の本社で

「厚底」対抗のランニングシューズ開発

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナウイルス禍の経営への影響は?

広田 世界各地のロックダウン(都市封鎖)で売り上げが急落しました。直営店や卸先のスポーツ用品店が閉まったからです。(オンラインストアなど)ECがあって本当に良かったと思います。欧米ではECサイトを通じての販売が回復の原動力になりました。欧州では昨年7~9月の売り上げがすでに前年同期を超えました。最悪期は脱したという状況です。(2021年の経営者)

── 国内の状況は?

広田 日本については昨年1~9月の売上高はまだ前年同期の75%ぐらいです。理由は二つあるとみています。一つは日本人がお金を使うことに慎重になっていること。もう一つはインバウンド(訪日観光客)の需要が全部なくなってしまったことです。日本だけが戻りが遅い感じを受けています。

── コロナ禍でユーザーの意識は変わりましたか。

広田 我々は昨年、世界12カ国で1万4000人を対象にした意識調査を行いました。その結果によると「コロナで運動が重要だと考えるようになった」との回答が75%に上り、「新しく運動を始めた」との答えも59%ありました。世界的に運動への意識が高まったとみています。在宅勤務の影響もありますが、さまざまな世代の人たちが街を歩いたり走ったりするのを見かけるようになりました。

── スポーツシューズが主力商品ですが、特徴は何ですか。

広田 一番大切にしているのは安心・安全。運動をする時にはけがのリスクが伴います。重要なのは、そのリスクを軽減すること。そうした研究のため、神戸市内の研究所には100人ほどの研究員が在籍しています。最も売れているのはランニングシューズで、さまざまなスポーツに合わせた技術開発を行っています。

── スポーツブランドではファッション性も重視されますね。

広田 通常のアシックスブランドとは別に、19年前にファッション性の高いブランドとして「オニツカタイガー」を復活させました。特に中国ではおしゃれなシューズとして人気があります。加えて、中国では最近、ランニングシューズの勢いも増しており、運動への関心が高まっているようです。

── マラソンなど長距離ではナイキの「厚底シューズ」がブームです。

広田 正直なところ「やられた」と認めざるを得ません。ただ我々も指をくわえて見ているわけにはいかないので、ナイキに対抗したシューズを発売します。テストランニングも始まって、まずまずの結果を出しています。

── 他社に負けない、自信のある商品は?

広田 陸上短距離の桐生祥秀選手が使用している「ピン」なしのスパイクですね。普通のシューズは靴底に金属製のピンが付いていますが、ピンがトラックに刺さって抜けるまでに少し時間がかかってしまいます。この時間を短縮しようと、ピンの代わりに六角形の突起を配置したシューズを開発しました。ピンがないことで軽量化にもなります。

── 昨年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックが延期されました。

広田 大会関係者が着用するウエアもすでに納品しています。どのような形で開催されるかはまだ分かりませんが、日本選手を応援するためのシャツを用意し、自宅からも応援しようとキャンペーンを打つつもりです。

自社ECに注力

── ECには今後、どう力を入れていきますか。

広田 自社サイトのほかに、「楽天市場」のような通販サイトへの出店や、スポーツ用品店など卸売先のECなどさまざまな形がありますが、特に自社によるECに力を入れたいですね。利益率の高さだけでなく、購入者の情報も得られるからです。ただ、自社のサイトで買ってもらうにはプラスアルファのサービスが必要。そのため、走る頻度や距離を入力するだけでおすすめのシューズを見繕うなど顧客を引きつける価値を提供していきます。

── 2016年に公表した中期経営計画(16~20年度)では20年12月期に売上高7500億円(18年に5000億円に修正)の目標を掲げました。ただ、昨年12月時点の業績予想では3200億円にとどまっています。

広田 マラソン人口の伸びが落ち着いてきたことに加え、(スポーツ用品を日常生活でも身につける)「アスレジャー」の流れにうまく乗れなかったことも要因です。

── 今後の経営方針は。

広田 シェア獲得のために安売りでは意味がありません。しっかりと利益を出すことが大事です。コロナ禍を経験したことで財務基盤をしっかりしないといけないと社員も感じたはずです。デジタルを絡めながら、利益が出る商品やサービスを提供していきます。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 商社の社員としてロンドンに駐在し、マネジャーも経験しました。東西ドイツ統一や湾岸戦争などまさかの出来事の連続でした。

Q 「好きな本」は

A 私自身、広報部門に長く在籍しました。我が社の広報にも新聞社のことがよく分かる『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫著)を薦めています。

Q 休日の過ごし方

A 50代でマラソンを始め、毎月100キロを目標に走っています。


事業内容:シューズなどスポーツ用品の製造・販売

本社所在地:神戸市

創業:1949年9月

資本金:239億7200万円

従業員数:9039人(19年12月末、連結)

業績(19年12月期、連結)

 売上高:3780億円

 営業利益:106億円


 ■人物略歴

広田康人(ひろた・やすひと)

 1956年生まれ、東海高校、早稲田大学政治経済学部卒業後、80年4月三菱商事。広報部長、常務執行役員などを経て18年1月アシックス入社、同3月から現職。愛知県出身、64歳。

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