週刊エコノミスト Online2021年の経営者

アマゾン需要と巣ごもり消費で最高益 和佐見勝 丸和運輸機関社長

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨、東京都千代田区の東京本部で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨、東京都千代田区の東京本部で

アマゾン需要と巣ごもり消費で最高益

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 運輸業として桃太郎便を展開し、コロナ禍で好調な業績が続いています。

和佐見 外出自粛の長期化でネットでの買い物が増えています。この勢いは今後も変わらないでしょう。商品配送の需要の高まりが当社に追い風になっています。2020年9月中間決算は、営業利益、経常利益、純利益はいずれも前年同期比で2割台の伸びで、過去最高益を達成しました。

 日本のEC(電子商取引)化率は19年は6・7%でしたが、昨今の巣ごもり消費の拡大を受けて、上がってきていると感じています。経済産業省の報告書では、EC化率は中国が約36%、米国は約11%となっており、日本もまだまだ伸びるはずです。(2021年の経営者)

── 人との接触が制限されるなかで、配達に変化は?

和佐見 荷物を指定された場所に置く「置き配」が20年夏ごろから本格的に進み、これによって、荷物を渡せずに持ち帰る不在率がかなり低くなってきています。当社でも改善しています。国土交通省の調査では宅配便の再配達率は19年4月は16%でしたが、20年4月は8・5%と大幅に下がりました。

── 業績が急拡大したのは、17年にアマゾンジャパンの当日配送を請け負ったことが大きい。他の大手運輸が撤退する中で、なぜ引き受けることができたのですか。

和佐見 アマゾンは国内数十カ所の配送センターからとんでもない数の商品が出荷されます。競合相手の大手運輸会社は人手が足りず、ドライバーが加盟する労働組合から契約を止めてほしいとの悲鳴が出て、次々に撤退しました。大手他社はいわゆる宅配便を手掛けていて、配達以外に荷物の集荷業務があります。両方の業務をこなすのは実は難しいのです。一方、当社は集荷を行っておらず、配達だけという違いがありました。

 そうした中で、注文急増に当社が対応できたのは、独自の配送ネットワーク「アズコムネット」と、個人事業主向けの独立開業型モデル「桃太郎クイックエース」というシステムがあったからです。

── どんな仕組みですか。

和佐見 アズコムネットは協力運輸会社などをまとめたネットワーク組織です。加盟社には、当社の仕事を1~2年などの長期契約で請け負ってもらっています。現在約1500社が加盟していて、30~35年には1万社を目標にしています。

 桃太郎クイックエースは17年9月ごろから始めた個人事業主の開業支援です。資金がない人にも仕事と年間720万円の収入を保障し、事業主としての契約者を集めました。当社と組むことで一緒に仕事をするだけでなく、トラックや燃料の共同購入でコストを下げられるというメリットもあります。

店に代わって在庫管理

── 主な取引先にマツモトキヨシ、アマゾン、ニトリ、イトーヨーカドーなど業界大手の名前が並んでいます。丸和に頼むメリットは何ですか。

和佐見 当社に物流をフル・アウトソーシング(完全外部委託)することで物流コストを大幅に下げることが可能になります。例えば、売上高1兆円を超えるある大手ドラッグストアは物流担当者がたった2人です。それができるのは、当社がすべて引き受けているからです。店舗の開店前に商品を納品し、欠品が発生しないようにデータを共有して在庫も管理します。個人向けの配送も行います。ネットで商品の注文があると、当社が代行して倉庫で保管・管理している商品を顧客に配達します。

── 昨年、個人資産から10億円を全従業員に支給(社員平均30万円、パート従業員に最大5万円)しました。

和佐見 コロナで大変な中、社員の頑張りへの感謝が一つの理由です。巣ごもりで配達の仕事が急増して業務の負担が増えています。1970年の創業から50周年を記念する意味もあります。株を担保に銀行から融資してもらいました。

── 青果業から一代で会社を築きました。50年間を振り返ると。

和佐見 15歳の頃から青果市場でアルバイトしていました。母親が病で入院していたこともあって、自分が頑張らねばという思いが強く、早く独立したいと考えていました。周囲には反対されましたが、高校には行かず、19歳で独立して八百屋を始めました。ところが、24歳の時に知人の連帯保証人になったことが災いして、お店を失ってしまいました。残ったのがトラック1台、それで運送業を始めました。

 90年代前半に企業の物流業務を一貫して請け負うサード・パーティー・ロジスティクス(3PL)事業に国内でいちはやく参入しました。小売業の物流に特化したのは、私が八百屋をやって小売りの現場をよく知っていたからです。小売業と一緒になって仕組みをつくり、共に成長していくのはやりがいを感じます。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q 今まで会社でピンチだったことは

A 毎日です。かなり昔ですが、12月暮れの荷物が多すぎてクレームで電話が鳴り続けたことがありました。

Q 「好きな本」は

A 稲盛和夫さんや古森重隆さんの経営に関する本や、中国の三国志を読みます。

Q 休日の過ごし方

A 10~20キロメートル歩きます。中学では1500メートルの陸上選手でした。


 ■人物略歴

和佐見勝(わさみ・まさる)

 1945年生まれ。中学卒業後、青果業を経て、70年に創業。73年に丸和運輸機関を設立して社長。埼玉県出身、75歳。


事業内容:企業から物流事業の一括受託(サードパーティー・ロジスティクス)

本社所在地:埼玉県吉川市

設立:1973年8月

資本金:(2020年3月末現在)26億6000万円

従業員数:1万2476人(20年3月末、グループ合計)

業績:(20年3月期、連結)

 売上高:983億円

 営業利益:71億円

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