週刊エコノミスト Online2021年の経営者

都市交通を継続できる収益構造に 紅村康 京王電鉄社長

Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都多摩市の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都多摩市の本社で

都市交通を継続できる収益構造に

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

―― 鉄道事業への新型コロナウイルス感染症の影響は。

紅村 昨年の今ごろから、苦しい状況が続いています。コロナ前の乗車率を100とすると、昨年の4月、5月の一時期は約8割減に落ち込みました。緊急事態宣言が解けてから緩やかに戻り、10月には2割減まで回復しました。しかし、年末から感染者が増え、年明けに緊急事態宣言が再び出て、1月以降は3~4割減となりました。(2021年の経営者)

―― 今後の見通しは。

紅村 希望としては、2割減ぐらいまで戻ればありがたいです。おそらく100%戻ると期待している鉄道会社はないと思います。本来なら4月から次の中期経営計画を始めるところですが、鉄道を中心とする運輸事業がどの程度回復するのかを見極めないと、全体の計画が立てられない状況です。

―― 2割減で利益が出ますか。

紅村 ギリギリだと思います。鉄道の事業を賄うのがやっとで、利益を出すのは厳しいと思います。首都圏の私鉄の収益構造は似ていて、各社とも同じような事業環境に置かれていると思います。

いずれ運賃も議論に

―― そうなるとどのように会社を変えていきますか。

紅村 輸送人員の減少にどの程度まで耐えられるかを念頭に、経費や人件費を削減していますが、交通を途絶えさせるわけにはいきませんし、安全をおろそかにもできません。できることはやっていて、かなり限界に近づいています。

―― では運賃の値上げも議論になりますか。

紅村 需要の減少が続けば、供給あるいは単価を見直さざるを得ません。例えば、緊急事態宣言を受けて、鉄道各社は1月から終電を繰り上げています。これは深夜帯の供給を抑えたことになります。運行ダイヤや運賃はあくまで各社が判断することですが、場合によっては、運賃のあり方などについて議論が必要になると思います。

―― 座って出勤、帰宅したい通勤客を狙って有料座席指定列車「京王ライナー」を2018年に導入し、好評です。

紅村 コロナ前に比べると若干、乗車率は下がりましたが、もともと通勤時間帯だけの運行で、例えば朝6時台に京王八王子駅や橋本駅を出発する新宿行きなど一部の列車は今でも満席に近いです。車内が密にならないことも今の情勢に合っています。ただ、時間帯によっては乗車率が下がっていて、昨年10月からは遅い時間帯の下り列車は運休しています。

―― 京王ライナー用の新型車両は、通常の車両より豪華です。採算が取れますか。

紅村 新型の5000系は通常車両より数割増しの投資になりましたが、座席指定列車として使用しない場合は、シートを回転させて、通常車両と同じ横向きに座る車両として走らせるので、基本的な考えは既存車両の代替という位置づけです。座席指定料金は410円で、その分は増収です。

―― 百貨店やスーパーなどの流通事業は、鉄道事業よりも売り上げが大きいですね。

紅村 コロナ禍で家で過ごすことが増えため、スーパー事業は比較的調子が良いです。しかし、百貨店は厳しい。そもそもコロナ以前からの課題であり、業態としての百貨店の在り方が問われています。百貨店事業から撤退することは考えていませんが、現在の規模で存続できるかは、今後答えを出さなければなりません。

―― 新しい百貨店のかたちを模索すると。

紅村 理想的にはそうですが、まだ解は見つかっていません。他社では不動産事業にシフトし、テナントビルにしている例がありますが、それが解決策かというと私は違和感があります。

プラザホテル50周年

―― 京王プラザホテルは6月に50周年を迎えますが、インバウンド(訪日外国人)需要がなくなり、緊急事態宣言で厳しい状況です。

紅村 京王プラザホテルは昨年新しい役員体制にして、50周年に備えていましたが、華々しいことをできる状態ではなくなりました。もともと宿泊客の75%以上がインバウンドでしたから、コロナが終息しても外国人はすぐに戻らないことを考えると、厳しい状況が続きます。今はとにかくコロナで失った集客をどう補うかに集中するしかありません。

―― どんな手がありますか。例えば帝国ホテルが打ち出した30泊36万円の滞在プランが話題になりました。

紅村 長期滞在者向けのプランは京王プラザも2月から実施します。料金は30泊16万円からで、リモートワークで使ってもらってよいと思います。ホテルについては抜本的な解決策はなく、少しでも売り上げを上げて、環境が好転するまで食いつないでいくことが重要です。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 経理部門に長く在籍し、外債の発行など新しい資金調達に取り組みましたが、従来にない仕組みだったので、税務当局とのやり取りに苦労しました。

Q 「好きな本」は

A SF小説が好きで、最近ではケン・リュウの『紙の動物園』です。

Q 休日の過ごし方

A 近所を散歩するほかは、毎週ジムのプールで泳いでいます。


事業内容:運輸業、流通業、不動産業、レジャー・サービス業

本社所在地:東京都多摩市

設立:1948年6月

資本金:590億2300万円

従業員数:1万3444人(2020年3月現在、連結)

業績(20年3月期、連結)

 営業収益:4336億6900万円

 営業利益:360億2400万円


 ■人物略歴

こうむら・やすし

 1958年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学政治経済学部卒業、80年京王帝都電鉄(現京王電鉄)入社。2010年取締役、13年京王観光社長、15年京王電鉄副社長を経て、16年から現職。東京都出身。62歳。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事