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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

コロナ禍で総合化学の強みを発揮 岩田圭一 住友化学社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都中央区で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都中央区で

コロナ禍で総合化学の強みを発揮

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2月に2021年3月期(国際会計基準)の「コア営業利益」(非経常的な要因による損益を控除した営業利益)の予想(連結)を1000億円から1350億円に上方修正しました。

岩田 新型コロナウイルスの影響で売上高は前期比約300億円の減益の見込みですが、コア営業利益は20年3月期とほぼ同じ水準を確保できそうです。米国で医薬品「ラツーダ」(抗精神病薬)の売り上げが堅調なこと、半導体関連材料の需要が旺盛なこと、石油化学製品の市況が上向いたことなどが全体の底上げにつながりました。(2021年の経営者)

 サウジアラビアで手掛ける石油化学合弁事業ペトロ・ラービグが、プラントの定期修理で約400億円の減益という状況下での実績なので、総合化学会社の良い面が表れたと思います。当社は多様な事業を手掛けていて、投資家からは「コングロマリット・ディスカウント」、つまりそれぞれの事業の価値の合計より、企業価値が低く評価されている、と批判されますが、コロナ禍で多角化経営の強みが発揮できたと思っています。

── ラービグは社運をかけた大型プロジェクトと言われましたが、操業開始からトラブルが続いています。今後の見通しは。

岩田 今期は赤字幅が1100億円程度になると予想しています。09年に操業を開始した第1期のプラントは、今は操業が安定し、動けば利益が出ます。19年から稼働している第2期プラントは、20年9月に完工保証(安定操業まで出資企業が融資返済を保証すること)が解除されました。つまり、銀行など第三者が見ても、採算性が見込める状態になったということです。21年以降は収益に貢献してくれると思っています。

── 抗精神病薬「ラツーダ」は、子会社の大日本住友製薬の売上高の半分近くを占めますが、米国での特許期限切れが23年です。

岩田 19年に約3300億円を投じて、医薬ベンチャーのロイバント・サイエンシズ社(英国・スイス)と提携し、まずは彼らの持つ「レルゴリクス」(進行性前立腺がん治療剤など)と「ビベグロン」(過活動膀胱(ぼうこう)向け薬剤など)の市場投入を目指しました。レルゴリクスは今年1月に米国で発売し、ビベグロンも米食品医薬品局(FDA)に承認されたので、数カ月後に発売する予定です。これで“ポスト・ラツーダ”の収益確保にめどが立ちつつあります。

唯一の電池セパレーター

── 自動車関連に力を入れています。

岩田 注目は、電気自動車(EV)用のリチウムイオン電池の正極材とセパレーターです。当社は唯一、アラミド樹脂でコーティングしたセパレーターを製造しています。アラミド樹脂は熱に強く、低収縮。それをコーティングしたセパレーターは、高温時に破裂しにくく、低収縮なので正極と負極のショート防止に優れています。すでに国内の大手電池メーカーに採用され、その電池は米国の大手EVメーカーに納入されています。

── ディスプレー材料では、韓国サムスン電子やLG電子が大型液晶ディスプレーから撤退する見通しです。韓国メーカーとは取引があり、打撃が大きいのでは。

岩田 痛いことは痛いが、それほど大きな打撃にはなりません。韓国勢に代わるのは、中国のBOE(京東方科技集団)やCSOT(華星光電)あたりだと思いますが、当社はこれらの会社と昔から密接な関係にあります。有機EL材料については現在、CSOTだけが大型の有機ELの開発・市場投入に手を挙げています。そこに使われる材料のいくつかは、当社が開発したものです。

── 農薬事業では19年に約900億円で南米の農薬会社を買収しました。さらに、インドでも関係会社を統合するなど、力を入れています。

岩田 ブラジルは世界最大の農薬市場です。豪州の大手農薬企業ニューファーム社の南米子会社4社を買収し、研究から製造・販売までの体制を整えたことで、売上高が伸びました。インドではシェア2位ほどの規模となり、数年内に1位を目指します。また、天然物由来の非化学農薬事業に力を入れており、研究開発や買収を通じて、非化学農薬へのシフトを加速しています。

── 20年12月末で有利子負債が約1兆4000億円と膨らんでいます。

岩田 大きな投資をしてきたので、やむを得ません。有利子負債削減の工程表を策定しており、現在1・1のDEレシオ(負債資本倍率)を24年末までに0・7にする目標を定めています。投資をやや控えめにし、収益を高めることで、目標達成に向けて取り組んでいきます。

── かつて住友化学と三井化学の経営統合が持ち上がりましたが、破談になりました。再び他社との統合を検討する可能性は。

岩田 それは考えていません。

(構成=和田肇・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 30代前半に体調を崩したことです。普通に歩くこともままならず、転職も考えましたが、運動することで回復しました。

Q 「好きな本」は

A 活字中毒なので乱読ですが、最近は池波正太郎や藤沢周平の時代小説です。椎名誠のSF作品も好きです

Q 休日の過ごし方

A 出張の移動で半分はつぶれてしまいますが、残り半分でゴルフをしています。


 ■人物略歴

いわた・けいいち

 1957年生まれ、甲陽学院(兵庫県)、東京大学法学部卒業。82年住友化学工業(現住友化学)入社。2010年執行役員、13年常務執行役員などを経て、19年4月から現職。大阪府出身、63歳。


事業内容:石油化学、エネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業化学品、医薬品

本社所在地:東京都中央区、大阪市中央区

設立:1925年6月

資本金:897億円(2020年3月末現在)

従業員数:3万3586人(20年3月末現在、連結)

業績(20年3月期、連結)

 売上高:2兆2258億円

 営業利益:1375億円

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