週刊エコノミスト Online2021年の経営者

脱炭素を進める産業を支援 船曳真一郎 三井住友海上火災保険社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社隣接の「ECOM駿河台」で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社隣接の「ECOM駿河台」で

    脱炭素を進める産業を支援

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナウイルス禍の経営への影響は?

    船曳 自動車保険や火災保険の契約件数は横ばいです。売り上げが一番大きいのは自動車保険ですが、通勤・通学用の契約件数は微増です。火災保険をかける家屋もコロナ禍で在宅時間が増えるなど、より重要な空間になっています。コロナによって保険の契約が極端には減っていません。(2021年の経営者)

    ── コロナに対応した新しい損害保険を商品化する予定は?

    船曳 世界同時多発的に発生する災害は、リスク分散ができません。最新の技術をもってしてもパンデミック(感染爆発)に対応できる保険は難しいのが実情です。ただ、パンデミックで発生する特定の(損害)領域について保険設計を行うことは可能性としてはあります。隙間(すきま)の分野なら対象はあるかもしれませんし、新たな補償の検討はしています。

    ── 国内新車販売台数が減っています。自動車保険の市場は厳しいのではないですか。

    船曳 少子高齢化が進んでいますが、高齢化で長生きする人が増えれば人口はそれほど減らないかもしれません。高齢になっても移動は必要で、特に地方では移動手段は基本的には自動車。高齢者が自分で運転しづらい状況になってきているからこそ、自動運転の技術が進歩しています。

    ── ホンダが「レベル3」(条件付き自動化)の乗用車を3月に発売しました。

    船曳 自動車事故の原因は、今は人間のエラーがほぼ100%を占めます。ところが、自動運転化が進むと、サイバー攻撃など従来とは異なる事故原因が出てきます。それに伴い事故の頻度や規模が変わり、リスク量が変化します。その場合は、(損害保険の)商品内容が変わる可能性はあるでしょう。

    火災保険は値上げも

    ── ドライブレコーダーを活用した自動車保険も手掛けています。

    船曳 ドラレコは自動運転が実現するまでの自動車の「目」です。ドラレコが捉えた情報を基に事故処理を迅速かつ確実に進められるようになります。また、収集したデータを加工して情報に付加価値をつけて第三者に売るビジネスを狙っています。道路の亀裂や構造物の倒壊の可能性などを捉える情報は、地方自治体などに買ってもらえると期待しています。

    ── 火災保険は、自然災害が増えて慢性的な赤字です。

    船曳 10年連続赤字で、おそらく今年(2021年3月期)も赤字です。事業を継続していくためには、保険料の値上げは一つの手段。ただ、消費者に一方的な負担をかけずに、商品を継続するための利益を捻出し、資本を蓄積することが必要です。事業費の削減のため構造的な改革に取り組んでいかなければいけません。

    ── 保険料の値上げ率はどれくらいになるのですか。19年には損害保険料率算出機構が参考料率を平均4・9%引き上げると金融庁に届け出ています。

    船曳 原則は損害保険料率算出機構の算定に比例します。ただ、火災保険はインフラ的な商品です。算定機構が出している数値は、社会的許容の上限です。値上げは理屈上必要ではありますが、ビジネスの再構築をどのように図るかによると考えています。

    ── 今年4月1日に全社横断的な「気候変動チーム」を立ち上げました。狙いは?

    船曳 損害保険を扱う事業者としては気候変動問題には真剣に取り組まなければいけません。脱炭素を進める産業を保険でサポートするためにも、再生可能エネルギーを作るような事業に対しては、積極的にリスクを引き受けます。また、当社自身も温室効果ガスの排出を減らす必要があり、申込書や保険証券、約款などで「ペーパーレス化」を、原則として3年で実現したいと考えています。

    ── 昨年11月に米保険IT企業Hippo(ヒッポ)に3億5000万ドル(約360億円)を出資しました。

    船曳 米国の自然災害は山火事とハリケーンが代表的です。山火事がどこで起きたか、火がいつ迫ってくるか、避難時にどこの道路が空いているかといった状況を、人工衛星を使って把握するノウハウをヒッポは持っています。宇宙から災害の状況を確認するようなダイナミックな発想は、保険業界の仲間内ではなかなか出てきません。日本でも台風時の被害把握などに役立つはずです。

    ── 同じMS&ADインシュアランスグループには、あいおいニッセイ同和損害保険もあります。合併の必要は?

    船曳 損保会社は大きな災害に耐えられる強い資本が必要です。今は当社もあいおいも利益を出して成長を続け、資本を蓄積しているので、合併を考える必要はありません。この先、もし十分な利益が得られなくなれば、その時に検討すればいいことだと思います。

    (構成=浜田健太郎・編集部)

    横顔

    Q 30代はどんなビジネスマンでしたか

    A 楽天やDeNA、ソフトバンクなどを営業で担当し、立ち上げの時代から成長する姿を見てきました。

    Q 「好きな本」は

    A 入山章栄著『世界の経営学者はいま何を考えているのか』と、坂村健著『イノベーションはいかに起こすか』です。

    Q 休日の過ごし方

    A ジャズ、ロック、ソウルを聴くこと。CDは約700枚、LPレコードは約300枚持っています。


     ■人物略歴

    船曳真一郎(ふなびき・しんいちろう)

     1960年生まれ。開成高校、神戸大学経営学部卒業。1983年住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社、2013年4月三井住友海上火災保険執行役員経営企画部長、常務、専務、副社長を経て21年4月から現職。東京都出身。60歳。


    事業内容:損害保険業

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1918年10月

    資本金:1395億円

    従業員数:2万2532人(2020年3月末現在、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     正味収入保険料:2兆1978億円

     経常利益:1034億円

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