週刊エコノミスト Online2021年の経営者

経営不振から反転へ 武器は「LNG」と「水素」 山東理二・千代田化工社長インタビュー

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝:横浜市の本社で、ロシアやカタールの案件を背景に
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝:横浜市の本社で、ロシアやカタールの案件を背景に

編集長インタビュー 山東理二 千代田化工建設社長

再建へLNGと水素に注力

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

―― 今年2月、カタールで天然ガスを液化処理するLNG(液化天然ガス)プラントの設計、建設業務を受注したと発表しました。

山東 カタールの国営石油会社から受注し、年産3200万トンです。2020年の世界LNG生産量は3・6億トンでしたから、世界の1割弱の生産規模に相当します。しかし、完工には約6年かかります。汗水を流して建設に当たり、引き渡して初めて利益がもたらされます。社内では「契約したからといって浮かれてはいけない」と徹底しています。

 千代田化工は米国シェール開発「キャメロン」のLNGプラント工事などのコストがかさみ、19年3月期に債務超過に陥った。筆頭株主である三菱商事や、三菱UFJ銀行から総額1800億円の金融支援を仰ぎ、5カ年の再生計画を策定した。(2021年の経営者)

―― 再生計画の進捗(しんちょく)は。

山東 定量目標では「安定的に年間純利益100億~200億円を計上し、5年間で900億円の利益を積み上げて、自己資本比率を20%以上に回復」としていました。しかし、最初の2年間(20年3月期~21年3月期)の最終利益は計201億円でした。新型コロナウイルス感染拡大や脱炭素の流れの中、LNG事業の最終投資決定が後ずれたり、一時停止して、受注計画が若干後ろ倒しになっています。このため「5年間の利益積み上げ900億円」という目標は2~3年後ろ倒しで達成見込みです。

―― 経営不振の原因は。

山東 当社の人的・技術的資本を超えて受注を増やしてしまったことです。この結果、人員が不足し、特に米国案件では協業先の現地工事会社に頼って臨みましたが、彼らの効率・進捗が想定以上に悪く、立て直しのために当社から人員を派遣しました。しかし、その時に既に後手に回っていたということでしょう。プラント建設を固定金額で請け負う「ランプサム」契約を結んだことも痛手でした。当時米国の労働者賃金が高騰し、その分を当社側で負担せざるを得なくなり採算が悪化しました。

―― ランプサムの見直しは。

山東 一部の顧客とは、人件費高騰や工期延長分は、ここまでは当社が負担するが、これ以上上がったら発注者で持つ、といったリスクを共有する契約内容を検討しています。ランプサム契約によって当社が一つの案件で失敗し、経営が傾くと工事が止まり、顧客も困ります。適正にリスクを分担しようという顧客も出てきました。

利益への意識、道半ば

―― 社内での改革は。

山東 社員に、損益への当事者意識を持ってもらうよう訴えています。当社の技術者は優秀ですが、「いいプラントを作って顧客が喜んでくれればいいんだ」という意識も強いです。利益を上げないと自分たちがやりたいこともできない、と訴えた結果、社員の意識も変わってきました。しかし道半ばです。

―― エネルギー業界では脱炭素の動きが加速しています。

山東 当社はLNGに注力しています。世界のLNG生産設備の4割相当に当社の工事が関与しており、LNGに関しては世界最大のシェアです。天然ガスは二酸化炭素を排出はしますが、石炭よりは少ないです。当分のLNG需要は見込んでいます。ただ、より長期の流れでは、水素に注力します。

―― 具体的には。

山東 水素の貯蔵・運搬方法として独自の技術「有機ケミカルハイドライド法」を開発しました。水素をトルエンと合成して「メチルシクロヘキサン(MCH)」という液体に圧縮します。MCHは常温・常圧での運搬が可能で、既存の化学用タンクやパイプラインといったインフラで貯蔵・運搬できます。利用時には、当社独自開発の触媒を使って、MCHから水素を取り出します。「SPERA(スペラ)水素」と商標登録しました。触媒や有機ケミカルハイドライド法の技術ライセンスを販売するモデルです。

―― 水素の貯蔵・運搬法には、マイナス253度に冷却・液化する「液化水素」や、窒素と合成して燃料アンモニアにする手法もあります。

山東 液化水素は冷却用の専用設備が必要ですし、設備の大型化も途上です。燃料アンモニアは、用途が石炭火力発電での混焼に限られます。ただ、当社も有機ケミカルハイドライド法だけではなく、液化水素や燃料アンモニアの関連設備の工事にも取り組んでおり、顧客の要望があれば提供します。

―― 有機ケミカルハイドライド法の商用化のめどは。

山東 昨年、ブルネイから川崎に一定程度の貯蔵・運搬をする実証実験が終わりました。今、複数の国内企業と、豪州や中東などから水素を輸入する案件を計画しており、25~26年をメドにセミコマーシャル(商用化の一歩手前)に到達することを目指します。

(構成=種市房子・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 商社で米独メーカーの鉱山機械を売り込むべく世界中を飛び回っていました。メーカーと顧客の間で、自分の価値は何か、と突き詰めました。

Q 「好きな本」は

A 太平洋戦争の戦記物です。

Q 休日の過ごし方

A 仕事でのゴルフか、家の周辺を3時間ほど歩いています。歩くとアイデアも浮かびます。


 ■人物略歴

山東理二(さんとう・まさじ)

 1957年生まれ、和歌山県出身。灘高校、東京大学法学部卒業。81年三菱商事入社、同社執行役員・中南米統括を経て2017年4月千代田化工建設副社長、同6月社長。19年6月、大河一司氏の会長兼CEO就任に伴い社長兼COO(最高執行責任者)。64歳。


事業内容:機械・設備の設計、調達、施工、コンサルティング

本社所在地:横浜市

設立:1948年1月

資本金:150億1400万円

従業員数:5649人(2020年3月末)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:3153億円

 営業利益:70億円

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