黒田清子さんの結婚式場にもなった帝国ホテルが「2500億円の建て替え」に踏み切る理由
50年ぶり建て替え、本館雰囲気生かす 定保英弥・帝国ホテル社長
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
―― コロナ禍で帝国ホテル東京の建て替えを発表しました。
定保 帝国ホテルは1890(明治23)年に東京・日比谷で、当時宮内省(現宮内庁)からの出資も得て日本の迎賓館としての役割で開業しました。以来、東京の建物は、初代、旧本館、今の本館で三代目になります。本館は大阪万博が開催された1970年に完成してから50年、隣接するタワー館も83年の建設から40年近くたちます。(2021年の経営者)
都心に進出する外資系の高級ホテルは、新しい施設、サービスを積極的に提供しています。近隣のホテルオークラやパレスホテルも建て替えで新しく生まれ変わりました。こうした中で、当社はサービスでは他のホテルに負けない強みを持っていますが、施設で比べると劣る面が否めません。また、将来起こり得る地震や感染症などのリスクに対応できるよう、経営基盤を立て直すことも狙いです。
―― 建て替え後のイメージはどのようなものですか。
定保 旧本館は米国の著名な建築家のフランク・ロイド・ライト氏が設計し、評判でした。建て替えにあたっては、ぜひライト氏の意匠を生かしてほしいという声がたくさん寄せられています。最近の都心ホテルは、高層ビルの複合施設の一部になっていることが多いのですが、本館はそのようにするつもりはありません。重厚感のある「ザ・帝国ホテル」にしたいですね。ライト氏の意匠・デザインをどう生かしていくかが大きなテーマになると思っています。
―― 客室数はどうなりますか。
定保 客室数は現在、本館とタワー館を合わせて931あります。国内の人口減少と海外客の戻りに時間がかかることを考えると、931の客室数は必要ないと思います。少し抑えていくことになるでしょう。
部屋の広さは現在42平方メートルと32平方メートルが中心ですが、外資系ホテルの50~60平方メートルを参考に広げていきます。
―― 建設資金が2000億~2500億円に上ります。どのように調達しますか。
定保 借り入れに加え、タワー館の一部の土地を三井不動産に譲渡し、共同で新タワー館を建設する計画です。現在はコロナ禍で手元のキャッシュが出ていく状況が続いていますが、オフィス賃貸収入が安定しており、無借金経営で体力は残っています。
―― 三井不動産は筆頭株主でもあります。共同事業で影響力が強まりませんか。
定保 当社の不動産事業を拡大するために、知見や経験が豊富な三井不動産にアドバイスをもらいます。本館の建て替えは、当社の責任で進めていきます。タワー館も当社が権利の過半を持ちます。
稼働率15%を耐える
―― 21年3月期の連結業績は143億円の最終赤字でした。コロナのまん延防止等重点措置や緊急事態宣言の影響はどうですか。
定保 20年度は年間稼働率が15%と、過去に経験したことがない低さでした。客室事業も宴会事業も7割を超える減収でした。レストランは昼間の営業がありますが、それでも6割減収です。一方、当社レストランのレトルト食品などを取り扱う外販事業は、“巣ごもり”需要のおかげで15%程度のマイナスにとどまりました。外販は今後も強化し安定的な利益を確保できる体制にしたいと思います。
―― 雇用の維持が大変では。
定保 ちょうど1年前の緊急事態宣言以降、8割の従業員が仕事を休んでいます。残念ながら厳しい状況下で賞与は減りましたが、給与水準は変えていません。
昨春の緊急事態宣言の時に、全従業員にコロナを乗り切るためのアイデアや職場に対する率直な意見を募ったところ、5500件以上の意見が集まりました。例えば、レストランのバイキング料理を、客席のタブレット端末で注文する方法などはすぐ採用しました。
―― ホテルの需要はいつごろ回復すると見ていますか。
定保 ワクチン接種の浸透度にもよると思いますが、今年下半期ごろから5割近くに戻ると思います。20年の10~11月には「Go Toキャンペーン」の効果で、4割近くに一瞬戻りました。当社は年間を通じて日本人と外国人の比率が半々です。一方、外資系のホテルは外国人が7~8割程度です。当社ホテルの会員制サービスの利用者は5万~6万人おり、国内の移動が回復すれば、稼働率も5割近くに戻せると考えています。
―― コロナ対策として2月に、月額36万円でタワー館の客室に泊まれるサービスアパートメント事業を発表し話題になりました。
定保 予約開始当日に完売しました。ビジネスで事務所代わりに使ったり、1カ月間のホテルライフを楽しみたいというニーズもあるようです。銀座に近いことが強みになっています。今後のサービスアパートメントの計画に向けて情報の蓄積にもなります。
(構成=桑子かつ代・編集部)
横顔
Q これまでの仕事でピンチだったことは
A 2001年の米国同時多発テロの時です。米国からの宿泊者が半年近く止まり、そのマイナス分を国内で補おうと大変苦労しました。
Q 「好きな本」は
A 渋沢栄一の『論語と算盤』です。
Q 休日の過ごし方
A ゴルフとサイクリングです。
■人物略歴
定保英弥(さだやす・ひでや)
1961年生まれ。鎌倉高校(神奈川県)、学習院大学経済学部卒。84年帝国ホテル入社。2004年営業部長、13年4月代表取締役社長・東京総支配人などを経て、17年4月から現職。東京都出身。59歳。
事業内容:ホテル、不動産賃貸
本社所在地:東京都千代田区
設立:1887年12月
資本金:14億8500万円
従業員数:1960人(20年3月末、連結)
業績(20年3月期、連結)
売上高:545億円
営業利益:31億円