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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

ソフトの不具合はテストのプロだから見抜ける=田中真史・バルテス社長インタビュー

Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 中村 琢磨:東京都千代田区の東京本社で
Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 中村 琢磨:東京都千代田区の東京本社で

プロだから見抜けるソフト不具合 田中真史 バルテス社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

―― ソフトウエアの不具合(バグ)を見つける会社ですが、具体的にはどのような仕事ですか。

田中 例えば、スマートフォンで言えば、機種によってモニターのサイズや画素数が異なったり、アプリや基本ソフト(OS)のバージョンも変わっていきます。そうした環境でも、ソフトウエアが正常に動くかどうかをチェックする必要があります。昨年の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の不具合は、OSの新しいバージョンにソフトが対応していなかったために起こりました。こうした不具合が起きないように製品が世に出る前に事前にテストするのが我々の会社です。(2021年の経営者)

―― 動作確認はソフトの開発会社が自ら実施すればいいのでは。

田中 確かにソフト開発会社の多くが自社でテストをしています。私もかつてソフト開発会社を経営し、自社でテストしていました。しかし、ソフト開発のエンジニアは、開発するのは一生懸命ですが、テストは嫌々やっている人が多いのです。このため、テストそのものがおろそかになりがちで、必要なチェックが漏れたりするのです。当社はテスト専門の人材を集め、皆がその重要性を理解しています。開発会社が自ら行うテストと、専門会社との違いは大きいと思います。

―― どんな不具合が見つかりますか。

田中 例えば、あるネットショッピングのシステムで、特定のスマホの機種では画面が真っ白になって動かなくなる不具合が見つかったことがあります。これは機種に依存する不具合で、100機種でテストをした結果、発見できました。多くの検査項目がある中で、生命や財産に関わる重要な項目は特に深掘りしてテストします。

―― 最近、銀行の大規模なシステムトラブルなどが問題になっています。

田中 テストにかけるコストを若干抑えたという要素に加え、本来なら実施するべきテストを漏らしていたのではないかと思います。銀行のシステムは巨大なため、特に複数のシステム同士が連携する部分で一部のテストが抜けることはありがちですね。

デジタル化が追い風

―― テスト会社はいくつかありますが、違いや強みは。

田中 一般にテストのやり方は人それぞれで、担当する人によって質もばらばらになりがちです。当社でも、過去には中途採用の人が我流でテストをしようとして、混乱したことがありました。

 そこで、常に一定の水準を担保できるよう「バルテスメソッド」という作業手法を構築しました。属人化を排するために、新卒・未経験者は2カ月、中途採用者は1カ月の研修を受けます。これまでの豊富な経験に基づいて、「この機能については、こういう観点でのテストが必要だ」というノウハウが蓄積されています。テストの標準化を進めることで、高い品質を担保しています。

―― ソフトにもいろいろな分野があります。

田中 当社はテストの分野を、(1)ゲームや遊技機などの「エンターテインメント」、(2)「ウェブ・スマホ」、(3)家電製品などに組み込まれたコンピューターを制御する「組み込み系」、(4)銀行や保険の業務システムなどの「エンタープライズ」――の四つに分類しています。このうち、当社ではエンターテインメント以外の三つの分野をすべて網羅しています。

 これからの時代は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などいろいろな技術を融合したシステムが出てくるでしょう。例えば、IoT向けにさまざまなセンサーを配置し、そのデータの収集は組み込み系の技術を使ったうえで、得られたビッグデータはエンタープライズのシステムで分析する――といったことが想定されます。こうした技術をすべてつなげて、一つのシステムを構築する時、当社はこれらすべての知見を持っていることが強みになります。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)や自動車の自動運転などで、いろいろな技術の融合は進むため、当社の総合力が生きるでしょう。

―― テスト市場の見通しは。

田中 我々の推計では、日本のソフトウエアの開発規模は約15・5兆円で、そのうち4割弱をテスト工程が占めるとすると、約5・5兆円の規模になります。ただ、当社も含めたテスト上位5社の売上高を合計しても、シェアは2%にしかすぎません。

 大手のソフト開発会社ではきちんとしたテスト部隊を持っているところもありますが、それを除いても市場規模の8~9割はテストのプロではない開発エンジニアがテストしているのが現状で、我々がビジネスを広げる余地はまだまだ大きい。デジタル庁が設立され、国がデジタル化に力を入れれば、テスト市場全体の成長もさらに期待できると思います。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 最初の会社を大阪市で起業して5年後に阪神・淡路大震災が起こりました。決まっていた仕事が何件か中止になり苦しかったです。

Q 「好きな本」は

A 井上靖の『あすなろ物語』です。アスナロはヒノキに似ているがヒノキにはなれないもどかしさを表しています。私も「本物」になりたいと思って生きています。

Q 休日の過ごし方

A 妻と旅行に行くか、家飲みが多いです。


 ■人物略歴

田中真史(たなか・しんじ)

 1962年生まれ、私立大阪電気通信大学高校卒業。中小ソフトウエア会社に就職。フリーランスのエンジニアなどを経て、90年にソフトウエア開発会社を起業。約15年の経営の後、2004年バルテスを設立、現在に至る。大阪府出身。59歳。


事業内容:ソフトウエアテスト、品質コンサルティング、ソフトウエア品質教育、セキュリティー・脆弱(ぜいじゃく)性診断

本社所在地:大阪市

設立:2004年4月

資本金:9000万円(2021年3月末現在)

従業員数:646人(21年3月末現在、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:52億6200万円

 営業利益:3億4400万円

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