週刊エコノミスト Online2021年の経営者

男も顔のシミを隠したい。コロナ禍のオンライン会議でハッと気づく身だしなみ=資生堂社長・魚谷雅彦

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 中村 琢磨、東京都中央区の汐留オフィスで
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 中村 琢磨、東京都中央区の汐留オフィスで

コロナ禍で伸びる男性用化粧品 魚谷雅彦 資生堂社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 女性向けシャンプー「ツバキ(TSUBAKI)」や男性用化粧品「ウーノ(uno)」などの日用品(パーソナルケア)事業を、投資ファンドに売却しました。

魚谷 大きな意味で原点回帰です。広告宣伝費をたくさんかけて、消費者にアピールして売り上げを伸ばすビジネスモデルでしたが、派手な印象とは違って、日用品事業が全体の売上高に占める比率は9%でした。資生堂での優先順位を考えると、予算や人など限りある経営資源の中では限界があり、日用品を独立させて専業にした方が成長できると判断しました。

 株主や投資家からみても、これからは化粧品に集中するという資生堂の立ち位置がより明確になりました。ただし、日用品の新会社には資生堂も35%出資しており、引き継ぎや営業の支援は続けますし、株も当面持ち続けます。(2021年の経営者)

── 社内で反対の声はありませんでしたか。

魚谷 ぜひ決断すべきだという声が強く、役員会で反対する声は全くありませんでした。

 新会社に移る社員に対して心苦しいところはあります。社員には「資生堂の社員という肩書ではなく、発想を変えて、自分のキャリアを仕事の中身で築く時代が来ている、考え方を切り替えてほしい」と話をしました。

── 2020年12月期決算は最終(当期)損益が116億円の赤字となりました。新型コロナウイルスの影響は大きかったですか。

魚谷 すべてコロナです。19年の売上高は1兆1315億円、営業利益は1138億円、純利益は735億円と過去最高を記録し、20年も良い年になると思っていたところでした。日本では訪日観光客(インバウンド)がなくなり、欧米も都市封鎖が相次ぎました。外出しないと化粧をしません。国内化粧品業界全体で口紅の売り上げが4割減少しました。

スキンケアに注力

── 21年はどうみていますか。

魚谷 回復ペースは想定より遅れていますが、秋から来年にかけて消費はかなり活性化するとみています。化粧品もその恩恵を受けるでしょう。本格的な回復は22年になると思います。

 変異株など不確定な部分もありますが、現在の見通しに基づけば売上高は1兆670億円、営業利益も270億円の目標を達成できるとみています。

── 30年の経営目標として売上高2兆円、営業利益率18%を掲げています。現在の2倍の売り上げはかなり高い目標では。

魚谷 売上高は毎年7%ずつ伸びれば、10年で2倍になります。世界の化粧品市場は年5%程度の成長が見込まれています。例えば売上高を6%ずつ伸ばし、今後のM&A(合併・買収)の可能性なども考えれば達成できる数字だと思います。

 営業利益率は、日本の産業界ではメーカーは5%程度です。一方、当社の競合相手である世界の化粧品会社は利益率が20%を超えているところもあります。それぐらいの利益を上げないと必要な投資ができません。高い利益率がなければ世界で生き残れないという危機感を持っています。

── 化粧品のどの分野に力を入れますか。

魚谷 スキンケアです。第一の理由は資生堂が得意だからです。もともとスキンケアで世界トップ企業と言われ、高い技術があります。第二にコロナ禍での健康意識の高まりです。肌の健康を維持するためには体の健康、食事や睡眠も大事です。体全体の包括的な健康と美容をホリスティックビューティーと言います。東洋思想の考え方で、資生堂が得意とするものです。

── 男性向け化粧品も広がっているそうですね。

魚谷 コロナでオンライン会議などが増えて、パソコンの画面で相手と向き合う機会が増えましたよね。今は画像が鮮明なので、顔のシミとかがはっきり見えます。それに気付いた男性が増えたんだろうと思います。家族に指摘されることもあるでしょうし。

── どんな商品が売れるのですか。

魚谷 一つは洗顔料です。20代は40%くらいが洗顔料を使っています。40~50代の男性もまず顔を洗って、汚れを落としましょうと。その次は保湿のための美容液です。あとは、メーク用のファンデーション、シミなどを隠すコンシーラーですね。少し色を加えるだけで元気そうな顔になり、若くも見えます。看板ブランド「SHISEIDO」のアルティミューン美容液で初めて男性用を投入しました。

── 日本コカ・コーラから資生堂に移り、社長になって7年です。後継者を考える時期では。

魚谷 当然考えないといけません。私は、よく使われる「プロ経営者」という言葉が嫌いです。時代に応じて資生堂の新しい価値や経営戦略を打ち出せる人にトップに就いてほしいと思います。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 欧州系企業の日本法人の責任者になって、本社での会議に出席しようと思ったら、会社が売却されたことがありました。びっくりしました。

Q 「好きな本」は

A 阪急東宝グループの創業者の小林一三さんの『私の行き方 阪急電鉄 宝塚歌劇を創った男』です。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフです。でも、プレー中、つい仕事のことを考えてしまいます。


 ■人物略歴

魚谷雅彦(うおたに・まさひこ)

 1954年生まれ、奈良県出身、大阪星光学院高校卒、同志社大学文学部卒業。77年ライオン歯磨(現ライオン)入社。クラフト・ジャパン(現モンデリーズ・ジャパン)副社長、日本コカ・コーラ社長などを経て2013年資生堂マーケティング統括顧問、14年4月から社長。67歳。


事業内容:化粧品の製造・販売、レストラン・美容室経営

本社所在地:東京都中央区

設立:1927年6月

資本金:645億600万円

従業員数:約4万6000人(2021年1月1日時点、連結)

業績(20年12月期、連結)

 売上高:9208億円

 営業利益:149億円

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