週刊エコノミスト Online2022年の経営者

脱炭素で燃料アンモニアに商機 永松治夫・東洋エンジニアリング社長

Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の東京本社で
Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の東京本社で

脱炭素で燃料アンモニアに商機

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 総合エンジニアリング業として、どのようなビジネスを手掛けているのですか。

永松 当社は東洋高圧工業(現・三井化学)の工務部門を母体としています。東洋高圧が当時、尿素やアンモニアなど肥料製造に強かったため、当社も尿素・アンモニアのプラントのEPC(設計・調達・建設)からスタートしました。その後、石油化学プラント、石油・ガス処理プラント、発電所などにも事業領域を拡大してきました。(2022年の経営者)

 事業別で見ると、2021年4〜9月期は「発電・交通システムなど」が売上高全体の4割を占め、「石油・ガス」が2割、アンモニアなどの「化学・肥料」が2割、石油化学が15%程度、「医薬・環境・産業施設」が数%。国内・海外比率はほぼ半々です。

── 祖業のアンモニアプラントの実績は。

永松 これまで工業用・肥料用を中心に86件の受注実績があり、01年以降に受注した件数ベースでは世界で11%のシェアを占めています。

── アンモニアは、燃やしても二酸化炭素を排出しないため、脱炭素の切り札として石炭火力発電での混焼用途が注目を集めています。燃料アンモニアについてはどういう取り組みをしていますか。

永松 ロシア極東のイルクーツクで20年度から、イルクーツク石油、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、伊藤忠商事とともにアンモニアを生産し、日本へ輸送するための事業化調査を行っています。生産するのは、天然ガス由来の水素を原料とし、製造工程で出る二酸化炭素を地中に埋めるなどして排出量を実質ゼロに近づける「ブルー・アンモニア」と呼ばれるもので、鉄道や船を使って日本へ輸送します。使途は石炭火力発電所での混焼や、船舶燃料を想定しています。26〜27年を目標に運用を開始したいと思っています。

── その事業化調査では、どういう役割を担いますか。

永松 二つの事業モデルを想定しています。一つは、アンモニア製造プラント建造などのプロジェクトです。製造プラントには、生産工程で出る二酸化炭素を回収・貯留する「CCS」のほか、二酸化炭素を油田に注入し、油層内に残った原油を圧力で押し出す「CO2─EOR(原油増進回収技術)」の設備も備えます。もう一つは、燃料アンモニアのサプライチェーン(供給網)構築・運営で、こちらは新しいビジネスモデルです。

── 脱炭素社会の達成に向けて「CCUS (二酸化炭素の回収・利用・貯留)」の技術が注目されています。その実績もありますか。

永松 当社は1980年代から資源開発案件に携わってきた関係で、EORやCCSの設備の建造プロジェクトに関わってきました。いずれの技術も地層などの知見が必要です。当社は石油・ガス開発会社などのプロジェクトへの協力を通して、世界中のさまざまな地層の知見を積み重ねてきた強みがあります。燃料アンモニアは生産工程での二酸化炭素排出を実質ゼロに近づけることが必要なので、回収した二酸化炭素を利用・貯留するCCUS設備は不可欠です。今後はアンモニアプラントとCCUS設備をセットで提案していきます。

── ほかに脱炭素のビジネスは。

永松 燃料アンモニアプラントのほか、エチレンプラント分解炉の電化や、SAF(再生可能エネルギーを原料とした航空燃料)プラント、ペットボトルのリサイクル工場、バイオマス発電所の建設にも取り組んでいます。

── 一方で、脱炭素は石油・ガスプラントや石油化学の受注に影響を及ぼすのではないですか。

永松 再生可能エネルギーが広く普及するまでには、新興国を中心に石油やガスは一定量必要とされます。また人口増加や経済発展にしたがって、石油化学製品の需要は伸びるでしょう。将来的にはカーボンニュートラル(温室効果ガス実質ゼロ)を意識した生産プロセスに移行していきますが、まだしばらく時間がかかるため、石油やガスは石油化学製品に必要な原料であり続けるでしょう。

拡大路線から転換

── かつて、米エチレンプラントの建造などで多額の費用超過が生じ、18年度には投資ファンド「インテグラル」の出資を受けました。

永松 現中期経営計画(21〜25年度)では、年間売上高の目安は3000億円です。しかし、10年代半ばには問題となった米エチレンプラントを含め、2000億円級の超大型案件を三つも同時に遂行していました。米国の現地技術者の人件費高騰も重なりました。その後、拡大路線から利益重視の路線に転換し、現中計では、23〜25年度平均で年間連結最終(当期)利益50億円を目標としています。目標達成のためにも、事業領域を国内と国外、あるいは既存事業と低炭素・カーボンニュートラル関連の事業、というように、バランス良く分散させていきます。

(構成=種市房子・編集部)

横顔

Q 30代のころはどんなビジネスパーソンでしたか

A 米国とマレーシアに計9年間駐在し、ほぼ海外生活でした。当時は1980年代後半の円高時で、日本企業の海外工場建設に携わりました。

Q 「好きな本」は

A 曽野綾子さんの『人間の基本』です。

Q 休日の過ごし方は

A 学生時代からドラムを演奏しており、ブルースバンドを組んでいました。しかし、コロナ以降は自宅近くの海岸を散歩しています。


 ■人物略歴

永松治夫(ながまつ・はるお)

 1957年生まれ、東京都出身。県立千葉高校、横浜国立大学工学部を経て同大学大学院修了。81年東洋エンジニアリング入社。主にプロジェクト担当を務め、2013年執行役員。取締役常務執行役員・インフラ事業本部長などを経て18年4月から現職。64歳。


事業内容:産業プラントの研究・開発協力、企画、設計など

本社所在地:千葉県習志野市

創業:1961年5月

資本金:181億円

従業員数:5878人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:1840億円

 営業利益:16億円

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