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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

EVの増加でアルミに商機 石原美幸 UACJ社長

Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で
Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で

EVの増加でアルミに商機

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 国内首位のアルミニウムメーカーです。新型コロナによる経営への影響は。

石原 特に2020年度は大変厳しい事業環境でした。当社は素材産業ですので、経済が停滞すれば最終製品の需要も落ちます。そのため、アルミ素材のニーズが落ちたのも必然です。一方で、飲料缶やパソコン、IT機器などアルミが使用されている製品はたくさんあるので、「巣ごもり需要」も発生しました。薬をアルミ箔(はく)で包んだ薬包なども堅調でした。(2022年の経営者)

── 足元では業績がV字回復しています。

石原 22年3月期の売上高は、(13年の古河スカイと住友軽金属工業の統合後)初めて7500億円に達する見通しです。主な要因は、原料であるアルミ地金の価格が上がっていることです。経常利益は400億円を見通していますが、原料部分が220億円で、コスト削減も含めた本来の実力部分が180億円とみています。まだまだ利益を増やさないといけませんが、稼ぐ力は確実に付いていると思います。

── アルミの特徴は?

石原 まずは軽いことです。当社のアルミは、軽量化が求められるロケットや航空機、鉄道車両、自動車などに採用されています。身近なところでは、グループ会社で金属バットも作っています。また、熱伝導率が高いことも挙げられます。缶ビールなどの飲料はすぐに冷やして飲みたいですよね。アルミ缶はその要求にも応えることができます。他の素材と比較してリサイクルがしやすいことも特徴です。アルミ缶のリサイクル率は94%にも上ります。

── 特に飲料缶向けが増えているようですね。

石原 アルミ缶の需要が伸びているのは、北米や東南アジア、オセアニアなどの地域で、環境意識の高まりによって「脱プラスチック」の流れが広がっています。北米ではこの先10年間、年4%ほどアルミ缶の需要が増えていくとされ、北米や欧州では、新しく発売される飲料の約7割がアルミ缶を選択しているそうです。一方、日本では少子高齢化もあり、需要は増えにくい状況です。

── 他に自動車向けも拡大が見込まれます。

石原 コストの制約もあり、もともと自動車では一部の車種での使用に限られていました。しかし燃費向上のため軽量化が進み、量産車でもルーフやドア、ボンネットなどに使われるようになりました。最近は電気自動車(EV)など電池を搭載して走る車が増えています。そうした車は電池自体が重いので、その他の部分を軽くする必要があり、さらにアルミの活用は増えるでしょう。軽さを重視するなら他の素材でもいいのでしょうが、自動車は人の命を守る強度が必要なので、アルミが選ばれているのでしょう。

リサイクルを推進

── 海外にも生産拠点を置いています。

石原 主力である板製品については、日本、タイ、北米に製造工場があり、3拠点体制が確立できました。それぞれの拠点の地域特性を生かしながら、地産地消で製品を提供します。ただ、北米については、缶材など需要が好調なのでタイから輸出しているほか、生産能力の増強も考えています。

── アルミ製品の製造には多くの電力が必要です。脱炭素が加速する中、どう取り組みますか。

石原 タイにある工場の屋上には、世界最大級の太陽光パネルを設置しました。生産拠点の電力は再生可能エネルギーの比率を増やします。生産工程では重油から燃焼効率のよい液化天然ガス(LNG)に熱源を転換していきます。さらに、自動車メーカーで車体の製造時に発生する端材を当社が引き取り、再びアルミコイルにする取り組みも進めます。ボーキサイトをアルミ地金に製錬する過程で多くの二酸化炭素が発生しますが、こうした素材のリサイクルを進めれば、二酸化炭素の発生を抑えることができます。

── 30年に向けた長期ビジョンを作成しました。

石原 この長期ビジョンは若手社員も交えて議論しました。当社がどのような企業でありたいかをまとめたものです。アルミを事業の起点にしつつも、将来的には「プラスアルファ」が必要なので、新しい事業領域にも挑戦します。具体的には「モビリティー」や「ライフスタイル・ヘルスケア」「エネルギー」の三つの分野です。

── その三つの分野で考えられる製品のイメージは。

石原 例えば、薬包の開封検知システムを開発しています。アルミ箔に回路が印刷されており、患者が医薬品を開封した時に、通信機器を通じて医師や家族などに伝える仕組みです。これまでは顧客の依頼を受けて開発をスタートしてきました。しかし、これからは素材をさらに活用してもらうため、当社から提案して用途を拡大していくことが必要だと考えています。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 社長就任後の2018~19年、米中貿易摩擦の影響を受けて収益が悪化したことです。構造改革に取り組むことで何とかピンチを乗り越えました。

Q 「好きな本」は

A 最近読んだのはダイキン工業の井上礼之会長の『人を知り、心を動かす』です。歴史小説も大好きです。

Q 休日の過ごし方

A 昔の町並みが残る「江戸の街」を散歩することです。御朱印も集めています。


 ■人物略歴

石原美幸(いしはら・みゆき)

 1957年生まれ。岐阜県立本巣高校(現・本巣松陽高校)、名古屋大学工学部卒。81年住友軽金属工業(現・UACJ)入社。生産本部名古屋製造所長、生産本部副本部長福井製造所長、生産本部長などを経て、2018年6月から現職。岐阜県出身、64歳。


事業内容:アルミニウム及びその合金の圧延製品、箔製品、押し出し製品などの製造・販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:2013年10月

資本金:522億円

従業員数:9722人(21年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:5697億円

 営業利益:111億円

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