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週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

「我慢」しない雇用関係が必要=江夏幾多郎

企業と従業員双方の「幸せ」追求

 経営学の古典的な定義をひもとくまでもなく、企業目標の達成は、複数の人々の活動を意図的(計画的)に調整することで実現する。人々に従業員として企業活動に参加してもらうには、それなりの誘因(インセンティブ)を提供しなければならない。人々に、「この企業に雇われ、企業からの要請に応えたら、私が欲しい〇〇が手に入るだろう」という前向きな期待を持たせ、その期待に実際に応えなければならない。労働と報酬の公正な交換関係を目に見える形で確立することが、雇用関係の基本である。

 雇用関係の基本を実現するため、企業は従業員またはその予備軍に対してさまざまな働きかけを行う。誰に従業員として企業活動に参画してもらうかを決めること(採用)や仕事の成果をより高めるための学習の機会を設けること(育成)などである。企業目的の達成のため、雇用関係の中で従業員に働きかける企業の活動が人事管理であり、それを効果的・効率的に進めていくための規則、標準化された手続きを人事制度という。

 人事管理がまず目指すべきは、人事制度の設計や運用を通じた安定した雇用関係である。雇用関係の安定とセットで考えなければならないのが、雇用関係を取り巻く状況の流動性、見えにくさである。社会状況、企業の経営目標、従業員の生活状況やキャリア目標は、日々というほどではないにせよ年々変化している。しかも、変化の動向については予見が難しい。

 こうした中での雇用関係は、その内実を変え続けることでこそ初めて安定する。企業から従業員に対し、同じ仕事に対する同じ待遇を10年あるいはそれ以上、提供し続けるのは非現実的である。従業員の成長を踏まえて仕事や待遇を変える。中途採用が行いやすいように業務内容の明確化や待遇における市場相場との連動を強める。こういったことが、経営上の合理的判断として必要になる。雇用関係における固定は、従業員にとっても望ましいものではない。より魅力的な仕事への挑戦。働く場所における選択の自由。こういったものがないと、仕事人生にも張りが生まれにくい。

「労働と報酬の交換関係を目に見えやすい形で確立する」という雇用関係の大原則は、「雇う側と雇われる側の双方の合意の中で交換関係の形を修正し続ける」という付則を伴わなければならない。こういった調整を行うのが人事管理である。

互いの「わがまま」共存

 自分の待遇の実態や背景を明確に説明できる従業員、人事制度の体系やその合理性と課題について明確に説明できる人事担当者は、そう多くないだろう。これまでの多くの雇用関係が、労働と報酬の交換関係が曖昧で、関係の形を結び直す時の合意性が弱いまま継続してきた。「働く時の少々の不条理は受け入れざるを得ないもの」という社会規範もその一因だろう。企業と従業員の双方が、雇用関係の実質についての自らの意見を述べず、相手の意見を求めず、相手…

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