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躍進の理由 テキサス州経済 テスラが移転・巨大工場を建設 南部の雄から米国の新…=ジェンキンス沙智

建設中のテスラ工場「ギガテキサス」2022年4月、テキサス州オースティン) 筆者撮影
建設中のテスラ工場「ギガテキサス」2022年4月、テキサス州オースティン) 筆者撮影

テスラが移転・巨大工場を建設 南部の雄から米国の新たな「核」に

 米テキサス州都オースティンの東側を南北に縦断する有料道路を走っていたところ、それまでスムーズだった車の流れが突如滞った。「事故でも起きたのだろうか」と見回してみると、そこにあったのは広漠とした平地に不似合いなコンクリートとガラスの超巨大な建物(写真)。

 米電気自動車(EV)大手テスラが建設している話題の新大型工場「ギガテキサス」を一目見ようと、皆スピードを落としていたことが渋滞の要因だった。

 同工場ではすでにスポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルY」の一部生産が始まっているほか、今後はピックアップトラック「サイバートラック」や大型トラック「セミ」なども生産される計画だ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は昨年12月にツイッターの投稿で、「長期的な投資額は100億ドル(1兆2250億円)を超え、少なくとも2万人の直接雇用と10万人の間接雇用を生み出す」と述べた。

「シリコンヒルズ」

 加えて、テスラは昨秋に本社もカリフォルニア州パロアルトからオースティンに移転し、マスク氏自身も同市に居を移した。本社移転の直接的な引き金となったのはコロナ禍での工場操業停止をめぐる地元当局との対立と見られているが、マスク氏は以前からシリコンバレーを「勝ち続けて現状に甘んじているスポーツチームのようだ」と批判していた。

 一方、オースティンについては「この50年間で最大のブームタウン(繁栄に沸く町)になる」と期待を寄せている。

 テスラの本社移転と新工場建設はテキサス州経済の近年の目覚ましい躍進を象徴している。同州でも特にオースティンは西部郊外に丘陵地帯が広がることから「シリコンヒルズ」とも呼ばれ、数十年前から半導体産業を中心にベンチャー企業が集まる街として知られていたが、ここ最近は大企業が米国内の主要拠点として事業を拡大する動きが加速している。

 韓国サムスン電子は昨年末、新たな半導体製造工場をオースティンから北東に50キロほど離れたテキサス州テイラーに建設すると発表。総投資額は約170億ドルで、同社にとって米国最大の投資案件であるうえ、テキサス州にとっても過去最大の外国直接投資となる。

 オースティン市内にすでに半導体製造拠点を有するサムスンは、まだあまり開発の進んでいないテイラーを新工場建設地に選んだ理由として、既存工場との距離、インフラの安定性、地元政府の支援などを挙げたが、将来的にオースティン都市圏が同市近郊まで広がると見込んだ先行投資の色合いも強いように思われる。

 このほか、ソフトウエア大手オラクルも近年オースティンに本社を移転し、アップルも同市北西部に巨大な新本社を建設している。また、アマゾンやグーグルも同市での事業と雇用を大幅に拡大する計画を打ち出しているほか、フェイスブックの親会社であるメタもオースティンから100キロほど北の小さな町であるテンプルに大規模データセンターを建設する予定だ。

経済規模はカナダ並み

 日本でテキサス州と聞けば、銃とカウボーイのイメージがいまだに強いかもしれない。確かに、これも間違ってはいない。都市圏を出れば牛が悠々と草を食(は)む牧草地が広がり、「Texan(テキサス人)」の間ではカウボーイブーツとブルージーンズが今なお定番のスタイルだ。銃器の登録数が全米トップの同州には狩猟場も多く、田舎では近隣から射撃の音が聞こえてくることも珍しくない。

 他方で、米国の「最も住みやすい街」ランキングで常に上位を占めるオースティンに加え、ダラス、ヒューストン、サンアントニオなどの同州の大都市圏は、近年の人口流入によって急速に姿を変えつつある。米国勢調査局によると、全米の推計人口増加率が2021年に建国以来最低の0・1%に落ち込む中、テキサスは年率ベースで1・1%、絶対数ベースで1・3%と、他州をしのぐ伸びを記録した。10年以降で見ると州人口は20%近く増加しており、足元ではカリフォルニア州に次いで全米第2位の3000万人に迫る。

 メキシコと国境を接する同州は従来、移民が流入人口の多くを占めていたが、近年は米国内でも特にカリフォルニア州からの移住者が急増している。

 経済規模も大きく、テキサス州内総生産は21年7~9月時点で2兆ドル(約245兆円)を超える。ここでもカリフォルニ…

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週刊エコノミスト

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