「悪い円安」が庶民の家計を苦しめても5月の決算発表では「業績上振れ銘柄」が続出する=藤代宏一
「悪い円安」でも株式に恩恵=藤代宏一
巷間話題となっている「悪い円安」。それに反論するかのように、日本銀行(黒田東彦総裁)は、「円安は全体を通して経済・物価を共に押し上げ、日本経済にプラスに作用している」との見解を固持している。
日銀の分析によれば、輸出押し上げ効果や海外連結子会社の収益増加などを通じた企業業績の改善が、輸入物価上昇による悪影響を上回ることで、実質GDP(国内総生産)の増加に寄与するという。
黒田総裁は4月13日の講演でも「強力な金融緩和を粘り強く続ける」と繰り返し、円安加速の一因を作った。黒田総裁を筆頭に日銀の政策委員は、円安を警戒するそぶりをほとんど見せていない。
円安は輸入物価上昇を通じて、GDPの約6割を占める個人消費を圧迫する。マクロ的な「良しあし」は、立場や時間軸あるいは前後の文脈によって答えが異なるため、その判断は難しい。
ただし、日本株に限っていえばプラスの影響が大きいと筆者は考える。ここで見るべきポイントは、GDPに占める製造業のウエートが約2割に過ぎない一方、日本株(日経平均、TOPIX)においては約6割と大きな差があることだ。株価指数が(大企業)製造業偏重であることを再認識する必要がある。
「数量」は伸びていない
そのうえで、最近の輸出動向に注目したい。輸出といえば、通常は「数量」、もしくは物価や為替変動の影響を除去した「実質値」が注目される。そこで日銀が財務省の「貿易統計」を基に算出している「実質輸出」に目を向けると(図1)、コロナ禍における半導体などの電子部品(および半導体製造装置)の需要好調などから底堅く推移しているものの、自動車の供給制約が足かせとなり2021年のピークをなお下回る。
他方、マクロ経済の分析において軽視されがちな名目…
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週刊エコノミスト
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