西側のロシアへの対応は甘すぎる ジョージア紛争の時に西側にはもっと頑張ってほしかった=駐日ジョージア大使
ジョージア(旧グルジア)はウクライナと同様、1991年にソ連が解体するまでは、ソ連を構成する15の共和国の一つだった。しかし独立後、プーチン政権下のロシアは、ジョージア、ウクライナとそれぞれ紛争問題を抱え、軍事侵攻している。ウクライナへの侵攻をジョージアはどうみるのか、ティムラズ・レジャバ駐日大使に聞いた。(聞き手=桑子かつ代/藤枝克治・編集部)
―― ウクライナ戦争をきっかけに、14年間続くジョージアとロシアの紛争問題に注目が集まっている。2008年にジョージアから独立を求めた南オセチアが、ロシアからの軍事支援で分離独立を宣言したことで、ジョージアとロシアの間で戦争となり、ロシアは南オセチアと西部のアブハジアを占領している。ジョージアの親ロシア系住民の保護という名目での軍事侵攻は、今回のウクライナと似ている。ジョージアは、ロシアのウクライナ侵攻をどうみているか。
レジャバ大使 自国領土の20%を占領されているジョージアの立場からすると、西側のロシアへの対応は甘すぎる。14年前の南オセチアとアブハジア自治共和国に対するロシアの軍事介入と今回のウクライナ侵攻は重なる部分が多い。過去に同じような経験したジョージアとしては、西側の説得は効果がなくロシアは必ず侵攻する、という懸念を持って状況を注視していた。
―― 西側の首脳らがいくら交渉しても効果がないと。
レジャバ大使 ジョージアの08年の戦争の時にも、西側に今回のように頑張ってほしかったという思いもある。ジョージアは主権侵害を西側に訴えたが、当時はロシア軍の侵攻を絶対に阻止しようという動きが西側になかった。結果的に今に至るまで戦争が続いている。
―― ジョージア人の間でロシアに対する見方に変化はあるか。
レジャバ大使 不安と脅威を常に持っている。ウクライナが侵攻されたからというのではなく、自分たちが経験しているためだ。ウクライナ侵攻でそれがさらに一瞬跳ね上がった。
ジョージアは黒海の東にある人口約400万人の国。民族の9割近くがジョージア系で、アゼルバイジャン系やアルメニア系、ロシア系、オセチア系などが残りを占める。首都はトビリシで、ワイン発祥の地とされる。19世紀前半にロシア帝国に併合され、1922年には旧ソ連の支配下となったが、91年に独立をソ連崩壊前に宣言した。
ロシアとの関係は独立を求める南オセチアとの紛争で悪化した。ロシアが軍事介入し、ジョージア国内の旧南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立をロシアが一方的に承認し、ロシア軍を駐留させている。ロシアとの国交を断絶し、日本語での国名呼称もロシア語に由来するグルジアからジョージアに変更した。
―― ロシアが占拠している南オセチアとアブハジアにジョージア人は行けるのか。
レジャバ大使 昔からアブハジアと南オセチアの同胞たちの土地であり、家がある。しかし、ロシア側が一方的に「境界線」を作り「国境」と呼び、そこには有刺鉄線が張られ、ジョージア側から入ると殺されてしまう場所になっている。さらにロシアは境界線を勝手に動かして、じわじわと拡大しようとしている。コロナ禍でも薬や治療の提供が出来なかった。非人道的なことも行われており、国連を通して継続的に強く抗議をしている。
―― ロシアが7月に南オセチア編入の住民投票を実施するとしているが、ジョージアとして何か対応はあるのか。
レジャバ大使 ロシア側からのこうした発信を強く非難するが、住民投票は法的根拠が皆無であるため、何か事態が変わるとは思わない。ロシアの言動にひとつひとつ対応することはない。ただ、断じて認められないことだけは申し上げておきたい。(注:インタビューの後、南オセチアは国民投票は行わないと発表した)
「NATO加盟を望んでいる」
ウクライナ侵攻を受けてフィンランドとスウェーデンは5月に軍事的中立の方針を撤回し、NATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請した。ジョージアは従来からNATO加盟の意欲を示しており、3月にはEU(欧州連合)加盟の申請を正式に発表した。
―― フィンランドやスウェーデンが一転してNATOへの加盟を申請した。ジョージアの立場はどうか。
大使 NATO加盟を目指すという姿勢に変わりはない。ジョージアの安全保障を確保するための唯一の組織であり、今後も加盟国としての資格があることをアピールしていきたい。欧州連合(EU)への加盟も目指しており、ウクライナ情勢を受けて申請のタイミングを3月に早めた。
「北方領土返還は極めて困難」
ロシアは3月、欧米と共に経済制裁を行った日本を「非友好国」に指定した。日本はこれまでロシアと首脳会談を重ね、北方領土問題の解決に向けた良好な関係をアピールしてきたが、一変した。
―― 日本はジョージアと同様、ロシアと領土問題を抱えている。北方領土の四島全部が無理なら二島でもという譲歩案が出たり、北方領土でロシアと共同の経済活動など、さまざまな方針が打ち出されてきた。
レジャバ大使 日本のロシアへの対応は政権によってしばしば内容が変わるが、ジョージアは一貫して断交を続けており、変わらない。その立場から言うと、ロシアは自分の領土の返還するとか、領土問題を交渉しながら相手国と共通の利益を見い出そうとかは、全く思っていないだろう。日本とロシアの間には平和条約すらない。日本が非友好国は遺憾と言っても平和条約すら結べていないのだから当然だろう。ジョージアの経験からすると、返還は極めて困難であるのが現実だが、平和が訪れる日を期待する。
―― ロシアの独裁者スターリン、ソ連時代に外務大臣だったシュワルナゼはいずれもジョージア出身だ。ジョージア国内ではどのような位置付けか。
レジャバ大使 スターリンについては世代や地域によって見方は違うが、ロシア側の指導者になった裏切り者とみられている。スターリンの出身地のゴリという町では、特に年配層の間では評価する人がいる。シュワルナゼは国際的に評価されジョージアの大統領も務め、能力は極めて高いものの、汚職問題もあり、一貫した評価は難しい。
(略歴)ティムラズ・レジャバ 1988年ジョージアの首都トビリシ生まれ。父親の日本留学・仕事の関係で92年に日本に移り住み、2011年早稲田大学国際教養学部卒業、12~15年キッコーマン勤務。18年ジョージア外務省入省、21年から駐日ジョージア特命全権大使。