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賃金は実はそれほど上がっていなかった=斎藤太郎

「名目賃金上昇」の落とし穴=斎藤太郎

 原油高・円安の影響に伴う物価上昇が、家計の実質所得を大きく押し下げている。

 毎月勤労統計の現金給与総額(1人当たり・名目)は、2021年(平均)は前年比0.3%の低い伸びにとどまったが、22年1月以降は1~2%まで伸びを高めている。しかし、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)が3月の前年比1.5%から4月は同3.0%と伸びが急拡大したため、4月の実質賃金は前年比1.7%の下落となった(図1)。

 実質賃金の下落は個人消費の下押し要因だが、その一方で、名目賃金の上昇ペースが加速していることを評価する向きもある。しかし、22年1月以降の賃金上昇率は実勢よりも高めに出ていることには注意が必要だ。

 毎月勤労統計は、毎年1月のサンプル入れ替え(30人以上規模の事業所について全体の3分の1ずつ調査対象事業所を入れ替える)に加え、数年に1度、「経済センサス・基礎調査」などの結果(産業・規模別の労働者数)を反映させるベンチマーク更新を行う。

 22年1月は、サンプル入れ替えと、4年ぶりのベンチマーク更新が同時にあった。サンプル入れ替え・ベンチマーク更新前後の賃金を比較すると、新ベースの現金給与総額は旧ベースよりも1065円高い(新旧差0.4%)。毎月勤労統計の賃金上昇率(前年比)は断層調整を行わずに計算するため、22年1月以降の賃金上昇率は実勢よりも0.4ポイント高くなっている。断層調整後の4月の実質賃金は前年比2.1%減となる。

 厚生労働省は、前年同月分、当月分ともに集計対象となった「共通事業所」の賃金上昇率を参考系列として公表している。しかし、サンプル数が少ないため、必ずしも労働市場全体の賃金動向を表しているとはいえない。

毎月勤労統計のクセ

 22年1…

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週刊エコノミスト

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