資源・エネルギー学者が斬る・視点争点

地域でお金が循環する気候変動対策=藤井秀道

 地域に根ざした炭素排出削減に取り組むことで、地方の雇用の創出、地元産業の活発化につながる。

生物多様性の損失防ぐ効果も期待

 気候変動の影響緩和に向けて二酸化炭素(CO₂)排出量を削減する必要がある。CO₂排出量を削減する方法はさまざまあり、技術によって削減可能量や費用が異なる。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2022年4月に発表した報告書によれば、農業・林業部門における植物の炭素貯留や自然生態系の保護を行う場合は、20ドル以下の費用でCO₂排出量を1トン削減することが可能であり、産業部門と比較して安価な水準にあることが示されている。

 削減技術の費用の違いを踏まえ、どのようにCO₂排出量の削減を進めていくのが望ましいか。経済学的な視点に立てば、削減費用が低い技術から順番に導入を進めることが、社会全体での削減費用の最小化につながる。しかし、それでは削減費用が低い技術を導入することができない企業では削減取り組みを行わないで済むこととなり、不公平感が生じる。そこで重要となるのが、カーボンプライシング制度、特に排出権取引制度や、カーボンクレジット制度(CO₂排出量の削減分を取引対象として認証する)を活用したCO₂排出量の削減者と費用負担者の役割分担である。

 CO₂排出量の削減義務があり、義務の達成のためには費用が高額な技術しか導入できない状況にある製造企業Aがあるとする。企業Aは高額な排出削減技術を導入することで多額の費用負担が生じてしまう。これは企業AがCO₂排出量の削減者であるとともに高額な削減費用の負担者となったケースだ。

 一方、カーボンクレジット制度を利用することで、企業Aが少ない費用負担で排出削減義務を達成することが可能になるケースもある。例えば、CO₂排出量の削減費用が安価な森林管理による削減取り組みを実施する森林組合Bが、自分たちの取り組みで得たCO₂排出量の削減分を「カーボンクレジット」として登録し、このカーボンクレジットを企業Aが購入した場合だ。この場合はCO₂排出量の削減者は森林組合Bで、費用負担者は企業Aとなる。企業Aは、森林組合Bが登録したカーボンクレジットを購入することで高額な削減費用を負担してCO₂排出量削減を実現するよりも少ない費用負担で排出削減義務を達成することが可能となる(図)。このように炭素の価格付けを行い削減者と費用負担者の役割分担を行うことで、削減費用が低い技術から順番に導入されることが期待できる。

 費用が高額な技術を利用して削減したCO₂も、安価な技術を利用して削減したCO₂も、同じ量であれば気候変動緩和への貢献度は変わらないため、安価な費用で削減可能な技術を優先的に利用することが望ましい。高額な削減費用の負担は企業の利益を圧迫することで、昇給や雇用環境の整備、市場競争力獲得に向けた設備投資や研究開発投資を阻害してしまい、結果的に日本経済の活力を削(そ)いでしまう危険性がある。排出削減目標達成に向けた排出量取引やカーボンクレジットの活用も認めることで、企業が過度に経済性を犠牲にすることなくCO₂排出量を削減することができる。

環境投資が急拡大

 こうしたカーボンクレジット制度の広がりとともに注目を集めているのが自然気候ソリューションだ。自然気候ソリューションとは、土地や沿岸の生態系(森林、草原、湿地、農地など)の…

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