国営でもメジャーでもない石油企業として100年超の米企業ヘス=永井知美
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Hess ガイアナ沖の巨大油田発見に沸く=永井知美/43
米ヘスは原油・天然ガスの探査・開発・生産・運輸を行う独立系エネルギー企業である。サウジアラビアやロシアの国営企業、また米エクソンモービルなどの石油メジャーに比べると規模は小さいが、原油価格に業績が大きく左右されるハイリスク・ハイリターンの業界を巧みな事業戦略で泳ぎ切り、100年超の歴史を刻んできた。
近年注目を集めているのが、過去数十年で最大級の可採埋蔵量を有するといわれる南米のガイアナ沖油田である。2021年12月期の地域別原油生産量比率は米国66%、ガイアナ18%、東南アジア2%、その他13%となっている。
世界的に脱炭素が叫ばれる中、冷ややかな視線が向けられることが多くなった石油と天然ガスだが、エネルギーの王様であることに変わりはない。21世紀後半の脱炭素を目指すパリ協定が順守されたとしても、40年時点で石油・天然ガスが世界の電源構成の40%を占めると見られる(国際エネルギー機関予測)。
石油は太陽光など再エネが推進されてもなお根強い需要が予想され、可採埋蔵量約110億バレルのガイアナ沖スターブロック鉱区に注目が集まっている。ヘスは同区の探査・生産を行うコンソーシアムにエクソンモービル、中国海洋石油とともに参画しており、30%の権益を持っている。同鉱区では次々に有望油田が発見されている。
浮き沈み激しい業界
ヘスの源流は、英国の石油起業家が1920年に米国で設立したアメラダ・コーポレーションである。現CEOのジョン・ヘス氏の父親が設立した石油精製・販売会社、ヘス・オイル・アンド・ケミカルと69年に合併し、アメラダ・ヘス・コーポレーションとなった。95年以来ジョン・ヘス氏がCEOを務め、06年に社名をヘスに変更している。
エネルギー業界は浮き沈みが激しい。探査・開発・生産・出荷を上流、調達・輸送・精製・販売を下流と呼ぶが、上流はハイリスク・ハイリターンである。探査・開発には数千億円ともいわれる巨額の資金を必要とし、商業生産にこぎつけるのはほんの一握り。鉱区取得から資金回収までに5~10年ほどかかり、生産を開始しても売上高は原油価格・為替に大きく左右される。巨大油田を発見すれば低コストで原油を生産でき、巨額の利益を得る可能性もあるが、生産地は一部を除いて政情不安定な地域にある。石油業界の有力企業の多くが国営、あるいは合併や買収を繰り返して巨大化した企業であるのも当然ではある。
シェールから油田へ
そうした業界で、ヘスは事業を巧みに入れ替え生き残ってきた。00年代以降だけでも、原油価格はシェール革命による供給増、コロナ禍による需要減等を背景に何度も暴落し、ヘスは15年12月期から20年12月期にかけて純損失を計上した。シェール革命とは、00年代後半、米国で地下深くの頁岩(けつがん)(シェール)層に含まれる…
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週刊エコノミスト
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