国際・政治 FOCUS
次の英首相にトラス氏有利な情勢 インフレなど課題山積=石野なつみ
ジョンソン英首相の辞任表明に伴う与党・保守党の党首選の結果が9月5日に発表される。ここまでの保守党議員による予備投票の結果、トラス外相とスナク前財務相の2人に最終候補者が絞り込まれており、16万〜20万人(推定)の保守党党員による郵送投票で決定する。ジョンソン首相の路線を継承するトラス氏が有利な情勢だが、次期首相にはさまざまな課題が積み重なっている。
スナク氏は今年7月、首相官邸でのパーティーが発覚するなど不祥事が相次いだジョンソン首相に抗議する形で辞任し、ジョンソン政権崩壊のきっかけとなった。ただ、保守党党員を対象としたユーガブの世論調査(8月12〜17日)では、トラス氏が支持率66%とスナク氏の34%を大きく上回り、候補者討論会でのトラス氏の毅然(きぜん)とした姿勢にも支持が集まっている。
英国民の生活は危機に直面している。今年7月のインフレ率は約40年ぶりの高さとなる前年同月比10.1%を記録。スナク氏はインフレ抑制を優先に、中長期的な減税、慎重な財政政策を目指す方針だ。一方、トラス氏は、即時減税を最優先事項として経済成長を約束。国民保険料の引き上げ廃止や法人税引き上げ中止による減収は経済成長で賄えると主張する。
EUとの関係悪化
ウクライナ情勢については、英国は今後も一貫して対ロシア強硬姿勢を貫くとみられる。英国はウクライナ人に対する軍事訓練プログラムを主導したり、北大西洋条約機構(NATO)加盟申請中のスウェーデン、フィンランドへの軍事支援を約束したりするなど、軍事面での存在感を拡大している。トラス氏は西側諸国と調整を行うなど外交の経験が豊富だが、スナク氏は外交経験に乏しい。
スコットランドでは独立運動が再燃している。2014年の独立の是非を問う住民投票では独立反対が優勢だったが、スコットランド自治政府のスタージョン首相が今年6月、2度目の住民投票を来年10月に実施する意向を発表した。スナク氏もトラス氏もスコットランド独立には反対の立場であり、国内情勢の悪化が予想される。
一方、欧州連合(EU)との関係は、英領北アイルランドの通商関係について定めた「北アイルランド議定書」を巡って悪化の一途だ。英政府は議定書の内容を巡って再交渉が必要と主張するが、EU側は拒否しており、紛争に発展している。英国とEU双方の溝は深く、北アイルランド情勢も不安定化する中、新首相の手腕が試されることになる。
(石野なつみ・住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト)