意外に堅調な欧州経済 観光業が実質GDPを下支え=登地孝行
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ロシアによるウクライナ戦争でユーロ圏の景気後退が懸念される。一方で、南欧を中心に観光業が回復基調にあり、ラグジュアリーブランドなどを中心に企業業績は底堅い動きを見せている。
景気後退回避の可能性もある
世界的な物価の高騰を背景に景気が減速している。今年6月に第2次オイルショック後の1981年11月以来のインフレ率を記録した米国は、金融引き締めの影響も生じているとみられ、4~6月期に2四半期連続のマイナス成長となる「テクニカル・リセッション(景気後退)」となった。また、上海市などで都市封鎖措置を実施した中国の実質国内総生産(GDP)は前期比2.6%減とコロナショックが始まった2020年1~3月期以来のマイナス成長となった。
米国同様に記録的な高インフレとなり、輸出入といった経済的結びつきの観点で、ウクライナ・ロシア問題の長期化や中国経済の停滞の影響を受けやすいとされるユーロ圏ではリセッションが懸念されている。もっとも、今年4~6月期の実質GDP(改定値)は前期比0.6%増で5期連続のプラス成長となった。成長率は、21年10~12月期が同0.4%増、今年1~3月期が同0.5%増であったため緩やかながら加速している。
南欧中心に観光が下支え
国別の実質GDPを見ると、部材の供給制約やエネルギー価格の高騰で生産が低迷しているドイツがゼロ成長にとどまった一方で、南欧諸国を中心に観光業の持ち直しが寄与し、イタリアは同1%増、スペインは同1.1%増と高めのプラス成長となった。スペインの伸びの約3分の1は観光による下支えであった。また、観光業で競争力を持つことに加えて、電力や食料の自給率が高いことから、物価高騰ペースが比較的抑えられているフランスも同0.5%増とプラス成長に転じた。
行動制限の緩和による観光業の持ち直し以外にユーロ圏経済を支えた要因の一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融正常化や引き締めを背景とするユーロ安・米ドル高の進行だろう。原材料価格の高騰によるコスト増が懸念されたユーロ圏企業の上半期決算は、ユーロ安による為替差益の恩恵を受けやすい多国籍企業を中心に堅調であった(図1)。
欧州で時価総額最大の仏モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)は22年1~6月期に過去最高益を更新。売上高は前年同期比28%増の367億2900万ユーロ(約5兆円)、純利益は23%増の65億3200万ユーロで、市場予想を上回った。物価が高騰する中でも、通貨安により高収益を維持できた企業は、賃上げや投資を進めることができたと考えられる。なお、今年に入りユーロ以上に通貨安が進んだ日本でも、4~6月期に3期連続のプラス成長となっており、通貨安が景気をサポートした可能性がある。
ユーロ圏経済を支えたもう一つの要因は、商品の代替輸入が進んだことだ。欧州は、22年1〜5月に米国から前年比で2倍を上回る液化天然ガス(LNG)の輸入に成功した(図2)。世界最大のLNGの買い手であった中国が景気悪化による需要減などを理由に転売に回ったことが背景だ。中国は、先進諸国から経済制裁を受けているロシアから輸入を増やしており、ユーロ圏では輸入を制限しているロシア産商品の第三国を介した迂回(うかい)輸入が進んでいる可能性も指摘される。
今後のユーロ圏経済にとって、足元で商品価格に落ち着きが見えることが、高インフレの抑制の観点で明るい材料となる。原油価格は、ロシアのウクライナ侵攻で3月に一時1バレル=130ドル超に高騰したが、世界的な景気減速から90ドル前後まで下落、景気動向に敏感な銅も侵攻前に比べて2割下がった。
また、黒海の封鎖で滞留していたウクライナ産穀物の輸出が国連の仲介を経て再開、穀物は同1割程度安くなった。また、今のところ為替がユーロ安基調にあることが、輸入物価の上昇要因となる…
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週刊エコノミスト
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