米国は2023年前半にも景気後退突入 鈴木敏之
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FRBによるインフレ抑制と景気後退はセットで進むことになるだろう。
失業者の増加は不可避
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、8月26日の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演し、インフレ克服のためには、金利の上昇、成長の減速、雇用情勢の軟化もみるとして、景気後退を避けてインフレ率を目標の2%の低位に安定させる軟着陸の断念を語って世界に衝撃を与えた。
連邦公開市場委員会(FOMC)が参照するインフレ率の個人消費支出(PCE)コア指数の前年同月比は7月で4.6%と、目標の2%にははるか遠い。
今のインフレ高進は、世界的な新型コロナウイルスの流行とロシアのウクライナ侵攻によるサプライ(供給)ショックによるもので、需要を抑制する金融政策だけでは克服できないとみられるところもあった。しかし、需給の不均衡が広範に広がってしまった。特に労働需給の不均衡は未曽有のものとなってしまい、賃金上昇を引き起こしている。
ウォラーFRB理事は、労働市場の需要が非常に強いので、その需要が鈍っても、強い景気減速、失業率の上昇を引き起こすことなく均衡を回復できるという主張をしていたが、この見方はサマーズ元財務長官や国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めたブランシャール氏(米ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー)らから、「あまりに楽観的だ」と批判の対象になった。
現在のインフレ率は到底許容されないレベルの高いものであり、それが、労働需給の逼迫(ひっぱく)による賃金上昇を伴っている以上、需要の抑制が必要だろう。パウエル議長が盛んに言及してきた労働需給逼迫の指標というのは、求人件数が失業者数の何倍かという数字であるが、これが約2倍という未曽有の高さになっている(図1)。
労働参加率が一向に高まらない状態で、この比率を下げなければいけないということであれば、必然的に失業者が増えるという道を通ることになる。
歴史的に振り返っても、金融を引き締めて景気後退に陥らなかったことはまれだ。高まってしまったインフレ率を、2%のインフレ目標に引き戻すには、景気後退に至るブレーキをかけると言わなければ、信頼されるものではない。とはいえ、景気後退を許容する意味合いの発言をFRB議長がするのは抵抗もあったであろう。パウエル議長講演は、それを公言したという意味で衝撃であった。
それではいつ景気後退に陥るのだろうか──。まず、米国経済は第1四半期が前期比年率マイナス1.6%、第2四半期がマイナス0.6%と2期連続マイナス成長であった。景気後退を認定するのは全米経済研究所(NBER)の認定委員会であるが、この2期連続マイナス成長では、景気後退を認定しそうにない。
第1四半期のマイナス成長は、純輸出と在庫投資によるもので、経済の根幹である国内最終需要は「強い」といえるほどのプラス成長であった。雇用も強く、失業率は歴史的低位。第1四半期のGDI(国内総所得)はプラス成長だった。マイナス成長ながらも、「強さ」がある内容だったといえる。
しかし、仮に第3四半期もマイナス成長であれば、景気後退と判断されることになるだろう。一方、第2四半期のマイナス成長を早くから見越していたアトランタ連銀発表の米国GDP(国内総生産)の予想リポート「GDP Now」では、目下、第3四半期をプラス成長とみている。
現状は、米国経済が景気後退に陥ることを警戒させる警告灯がいくつも点灯している。景気後退リスクとなる長短金利の逆転が起きている。マイナスに転じると、景気後退が見えてくる景気先行指数の前年同月比の7…
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週刊エコノミスト
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