バイデン政権の人権配慮が裏目 不法移民が過去最大規模に 窪谷浩
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人権配慮で移民政策を転換したバイデン政権だが、事態悪化で不支持が高まっている。
米中間選挙の争点 不法移民
メキシコ国境を越えて米国に不法入国し身柄を拘束された人数(不法越境者数)は2021年度(20年10月〜21年9月)が165.9万人となり、1960年の統計開始以来最高となった。22年度も7月を除いて前年度を上回っており、7月までの累計が181.6万人と既に前年度を上回り、200万人の大台を突破することが確実視されている(図)。
不法移民が増加する中、今年6月には大型トレーラーで不法入国しようとした50人以上の不法移民が遺体で発見されるという凄惨(せいさん)な事件が起こった。危険を冒してでも米国入りを目指す人々が増えており、越境失敗による死亡事件が社会問題化している。
窮乏する南米から流入
不法移民が増加した要因の一つには、不法移民の多くを占める中南米諸国の貧困がある。特に、近年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、中南米諸国の多くの人が職を失ったことで、働き口を求めて米国を目指す人が増えた。国際労働機関(ILO)は19年後半から20年の第2四半期にかけて中南米およびカリブ海諸国で4900万人強の雇用が喪失されたとしたほか、21年末時点でも依然として2800万人が失業中と推計している。同地域では娯楽や観光業などの対面型サービス業の割合が高いため、コロナ禍に伴う雇用の減少幅が他の新興国に比べても大きかったとみられる。
一方、米国では感染リスクの高い接客などサービス業を中心とする低賃金の働き手が不足している。多くの移民がこれらの仕事に就くことを考慮すれば、労働市場の需要と供給という観点において職を求めて不法越境する人数は引き続き高水準が続くだろう。
メキシコ国境からの不法移民が歴史的な水準に増加した要因は、中南米諸国の事情だけではない。強硬な不法移民政策を導入したトランプ政権と異なり、バイデン政権が人道的な観点から不法移民に対して寛容と捉えられたことも大きいと考えられている。
トランプ政権は亡命を希望する不法移民が難民申請手続きを行う間、従前の米国内ではなくメキシコに待機することを定めた「移民保護プロトコル」、別名「メキシコ待機プログラム」を19年1月に導入した。この結果、治安が悪いメキシコで待機することを恐れた移民の難民申請件数が減少するなど移民削減に効果を上げていた。
また、同政権は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に公衆衛生法に基づく「タイトル42」の措置を20年3月に開始した。タイトル42は新型コロナウイルスに絡んだ公衆衛生を理由に不法移民を迅速に国外追放できることを規定しており、亡命を希望する不法移民に対して、従前の移民法に基づくタイトル8で認められていた難民申請ができない仕組みとなった。これらの措置は不法移民の流入抑止には一定の効果を収めた一方、迫害などを恐れた移民が難民申請に及び腰になる面もあり、「非人道的な措置」との批判が強かった。
人権を重視するバイデン大統領は就任直後に、トランプ大統領が実施した移民保護プロトコルを大統領令で停止する方針を示した。同プログラムは大統領令を受けて実際に21年6月に停止されたものの、トランプ前大統領が任命した連邦裁判所の判事が21年8月に同プログラムの再開を命じたことを受けて、21年12月に再開された。…
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週刊エコノミスト
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