国際・政治学者が斬る・視点争点

ワクチン接種券の送付を「非効率」と切り捨てる前に注目すべき「意外な強み」 佐々木周作

新型コロナウイルスワクチンの「クーポン券郵送」は一見、非効率にも思えるが、実は接種率上昇につながっている可能性がある。

風疹では「接種率上昇」を確認

 私たちが新型コロナウイルスのワクチン接種を受けるには、自治体から郵送されるクーポン券(接種券)が必要だ。予約を取る際に、クーポン券に振られた「券番号」を入力するシステムになっている。

 だが海外を見ると、クーポン券を使った接種手続きは、それほど一般的なものではないようだ。米国では、自治体からクーポン券が郵送されてきたという話は聞かない。1回目の接種後に接種証明カードがもらえ、2回目の接種を受けたら同じカードに記入してもらう、というプロセスのようだ。

 日本のように、クーポン券を印刷して対象者に郵送するという方法は、一見すると非効率で「前時代的」にも思える。デジタル化が進むに従って消滅していくのではないか、と考える読者もいるだろう。だが、このアナログな方法には意外な強みがあるのではないか、と筆者は考える。今回は、ワクチン接種における「クーポン券送付」の効果について分析したい。

 まず、考えられるメリットをいくつか挙げてみよう。

 第一に、クーポン券の送付に合わせて、いろいろな関連資料を同封して届けることができる。これらに目を通すことで、私たちはワクチンの効果の詳細を学び、公的に確保された接種会場で、自分の年代のワクチン接種がいつから始まるのかを知ることができる。仮に郵送されなかったら、厚生労働省や自治体のホームページを自ら訪問し、情報を得る必要がある。時間的コストを支払って、わざわざ自分から情報を入手しにいく人は多くないだろう。

 第二に、クーポン券という「モノ」を届けることによって、ワクチンの存在が顕在化され、自分のワクチンが確保されているという感覚を醸成する効果が期待できる。クーポン券を利用しないことは、ワクチン接種を無料で受けられる機会を「活用しない」ということでもある。活用しないことによる「もったいない」という感覚が、クーポン券が手元に届くことで、より強調される可能性がある。

 このように、クーポン券を送付するというアナログな方法が、人々のワクチン接種を促進したり円滑に進めたりしている可能性は十分にある。

「送付の有無」で比較

 クーポン券送付の効果を検証するには、①クーポン券が送付された人々と、②その人々と似たような人々で、クーポン券は送付されていないが、自分から手続きをすればワクチン接種を受けられる人々──の2通りを見つけて、両者の接種率を比較する必要がある。そうすることで、クーポン券を送付したことが接種率に与えた因果効果を測定できる。

 ただし、コロナワクチンに関していうと、これはなかなか難しそうだ。多くの自治体では、クーポン券は年代ごとに段階的に郵送されている。クーポン券が送付されていないという人々は、公的に確保された接種会場での予約受け付けが始まっていない、という場合がほとんどだったからである。つまり、クーポン券は届いていないが、自分で手続きすれば接種を受けられる、という②の条件を満たす人々が少なそうだ。

 ここ…

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