経済・企業学者が斬る・視点争点

累積走行距離が急拡大し進化する自動運転 糸久正人

自動運転各社の実証実験が加速している(米アマゾン子会社Zooxの自動運転車両)Bloomberg
自動運転各社の実証実験が加速している(米アマゾン子会社Zooxの自動運転車両)Bloomberg

 自動運転車の走行距離は年間で最大地球94周分と飛躍的に伸びている。米中勢の躍進が顕著だ。

躍進が目覚ましいスタートアップ企業

ウェイモ(グーグル)が公道における自動運転の実証実験を加速させている。2022年2月に発表された米国カリフォルニア州車両管理局(DMV)のリポートでは、ウェイモは自動運転車両を239台(20年)から693台(21年)へと大幅に増大させ、合計の走行距離は年間230万マイル(約370万キロ)と地球94周分に達した。次点のクルーズ(GM)138台・合計88万マイルと比較して、自動運転車両による圧倒的な走行距離となっている。

完全自動で日本列島6往復

また、自動運転モード解除1回当たりに走ることのできた平均距離(MPD:miles per disen­gagement)は、21年ウェイモの場合、7965マイル(1万2818キロ)となっている。換言すれば、ウェイモの自動運転システムでは、1万2818キロに1回の割合でしか自動運転解除が発生しない。むろんカリフォルニア州という限定された空間でのデータであるが、日本の鹿児島最南端「佐多岬」から北海道最北端「宗谷岬」まで、直線距離にして約1888キロで考えれば、日本列島を6往復半もの距離を完全自動運転で走行することができる。

 一方、20年時点ではウェイモと拮抗(きっこう)していたクルーズは、合計走行距離こそウェイモに大きな差を付けられているものの、MPDでは4万1719マイルという驚異的な数値をたたき出し、ウェイモを逆転している。ウェイモとクルーズは、自動運転システムにおけるフロントランナーである。しかし、22年のリポートで注目すべきは、米中の新興プレーヤーの台頭である。具体的には、フォードと独フォルクスワーゲン(VW)が出資するピッツバーグ拠点のArgo AI、アマゾン子会社のZooxに加え、中国系のPony.ai、WeRide、AutoX、DiDi、DeepRoute.aiといった気鋭のスタートアップ企業の躍進が目覚ましい。

 自動運転解除の定義は、厳密には各社ごとに完全に統一はされていないものの、報告された数値だけをみれば、これらの企業のMPDは、すでにウェイモを凌駕(りょうが)するレベルにある。特にMPDが最も長いAutoXは、カリフォルニア州では44台しか自動運転車両を走らせていないが、中国では1000台規模の車両を保有し実証実験を重ねている。自動運転システムのコア技術のひとつはAI(ディープラーニング)なので、中国における実証実験の大量走行データを学習した自動運転システムであれば、米国カリフォルニア州での好成績も納得がいく数値ではある。実際、図においても、合計の走行距離とMPDは右肩上がりの相関関係にある。

 以上のように、自動運転という文脈では、完成車メーカーではない、スタートアップ企業が目立つ。既存プレーヤーの完成車メーカーはテスラも含め、先進運転支援システム(ADAS)から漸次的イノベーションを目指しているが、こうした企業はAI技術をもとに一気に完全自動運転を目指す分断的イノベーションを…

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週刊エコノミスト

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