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週刊エコノミスト Online 少子化の高校野球

野球部員は減っても、白球を追い続ける 和田肇(編集部)

 ここ数年、高校野球の部員減少が、未曽有の規模で進んでいる。»»特集「少子化の高校野球」はこちら

 日本高等学校野球連盟(高野連)の統計によると、全国の硬式野球部員(1~3年生、毎年度5月末時点)は1982年度が11.7万人で、91年度に15万人。2014年度にピークの17万人に達した後、18年度から急激に減り始め、22年度は13.1万人に減少している。

 将来の都道府県別野球部員数を予測してみた(表1、拡大はこちら)。ピークの14年度17万人から22年度13万人の8年間の減少率は23%。複数の関係者の「減少はこのまま進む」との見通しを基に、減少率23%で8年後の30年度、さらに8年後の38年度の部員数を試算した。

最大減少率熊本の34%

 その結果、全国合計で30年度は10.1万人、38年度は7.8万人となった。その後も減少率23%が続けば、55年度ごろには野球部員はほぼゼロとなる見通しだ。単純な試算に過ぎないが、今の子どもたちが60歳を過ぎる頃には、日本から高校野球が消滅している可能性もある。

 14度から22年度まで、全都道府県で部員数は減少しているが、減少率は地域によって差がある。減少率が最も高いのは熊本県の34%で、最も低いのは徳島県の7%。30%台は熊本県、奈良県、大阪府、長野県、福島県で、他はほぼ20%前後の水準だ。

 地域別では、東北は全体的に減少率が高い。九州・沖縄も同様で、北信越では新潟県と長野県の減少率は高いが、富山県、石川県、福井県の減少率は総じて低い。関東と近畿地域の減少率が高めな一方で、岐阜県、愛知県、静岡県の中部地域は他の大都市圏より低い。元々他県に比べ部員数が少ない高知県の減少率が高いのが目立つ。

 高野連加盟校も減っている。ただし、増加している地域もあり、14年度と22年度の比較では、埼玉県、岐阜県、三重県、奈良県、福岡県、沖縄県の加盟校は増加している。加盟校数は微減ないし増減なしの都道府県が大半だが、北海道は14年度245校から22年度207校と大きく減少している。

 部員数が大きく減少する中で、加盟校数の減少が小幅なのは、部員数があまり減らない強豪校に対して、公立高校で部員数が急速に減少しているためと思われる。

 よく野球は“お金がかかるスポーツ”といわれる。高校野球はどのくらいの費用がかかるのか。『令和の高校野球 最新マネー事情』(手束仁著、21年、竹書房)から、著者の了解を得て、各種費用をまとめてみた(表2, 拡大はこちら)。野球部入部時の用具・ウエア費用はおよそ20万円。スパイクや練習用ウエア、バッティング手袋などは消耗品で、継続的な購入が必要となろう。この他に部費が1カ月数千円から1万数千円、対外遠征費用は1人当たり数万円から20万円前後かかり、私立強豪校で寮生活ともなれば、1カ月5万~8万円程度の出費は不可欠となる。

 こうしたコストをかけて、甲子園出場を果たした場合、学校はいくら支払うのか。ある事例では5000万円台相当の費用がかかるという。

“甲子園以外”が大切

 高校球児だけでなく、子どもの野球人口も急速に減少している。日本中学校体育連盟の統計によると、01年度の中学校軟式野球部数は8391で、部員32万1629人(男子)だったが、21年度は部数8048で、部員14万9485人に減少している。20年で約17万人減少というペースがこのまま続けば、40年度には、全国の中学野球部員はゼロになる。

 子どもの野球人口減少の要因はさまざまあるが、そのひとつに保護者の負担増も指摘されている。金銭面だけでなく、早朝から夜遅くまでの子どもの送り迎え、グラウンド整備、試合でのお茶くみ当番、子どもとコーチの昼食の手配など、野球をする子どもの保護者には多くの仕事が待ち構えている。ただし、今回取材した関係者によると、指導者による選手への体罰や暴言、過酷な練習などは、ほとんどなくなりつつあり、保護者の負担も軽くなるよう、工夫して取り組んでいるという。

 高校野球の部員減少をどう食い止めればよいのか。高校野球関連の著書が多い手束仁氏は、「“甲子園以外”に目を向けることが大切」と語る。「甲子園は高校野球の一部の姿。それ以外の三千数百校が高校野球を支えている。中学野球や学童野球も高校野球を支える裾野だ。そうしたところで頑張っている子どもたちに、もっと目を向けることが、部員減少対策のポイントになる」(手束氏)という。

 7月5日に高野連が公表した22年度加盟校部員数調査(5月末時点)によると、1年生部員の数が14年度以来、8年ぶりに前年度比で増加に転じている。甲子園だけが、高校野球ではないというものの、着実に少子化やスポーツの多様化は進む。岐路に差し掛かっている。

(和田肇・編集部)

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