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週刊エコノミスト Online 戦争とロシア文学

<番外編>いま読むロシア文学~おすすめの作家5選とその作品~

サンクト・ペテルブルクの書店(2010年撮影)
サンクト・ペテルブルクの書店(2010年撮影)

 ロシア文学の人気は根強い。「難しい」「暗い」「登場人物の名前が長くて複雑」という声がある一方で、長編小説の新訳が発表されたり、新鋭作家の日本語訳が新たに出版されたりするたびに、話題を呼ぶ。2006~07年に新訳が出版されたドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は、日本経済が停滞し、閉塞感が漂う中で、若者たちの人気を集めた。ロシアという国の複雑さとそこに生きる人々の知恵やたくましさを描いた作品は、常に人々を引きつけてきた。戦争のない時代に始まり、現在のプーチン政権下に至るまでの豊富な作品群の中から、ロシア文学研究者が選ぶ5人の作家とその作品を紹介する。(桑子かつ代・編集部)>>特集「戦争とロシア文学」はこちら

①アレクサンドル・ソルジェニーツィン

『1914年8月』(江川卓訳、新潮社)

 ロシア革命を描いた大作『赤い車輪』の第一部。革命のきっかけとなる第一次世界大戦で、ロシア軍が大敗した「タンネンベルグの戦い」が描かれる。

『甦れ、わがロシアよ』(木村浩訳、日本放送出版協会)

 ソ連解体のほぼ一年前に発表された論文。社会主義体制をいかに変革すべきか、理想の民主主義とはどのようなものなのかが論じられる。

<推薦:岩本和久・札幌大学教授>

②エドゥアルド・リモノフ

『ロザンナ』(沼野充義訳、河出書房新社『ヌマヌマ』に所収)

 リモノフの代表的な長編『ぼくはエージチカ』の9章。「ぼくがファックした最初のアメリカ人の女」であるロザンナの思い出が語られる。

<推薦:岩本和久・札幌大学教授>

③リュドミラ・ウリツカヤ

『通訳ダニエル・シュタイン』(前田和泉訳、新潮社)

 ポーランド出身のユダヤ人で、ゲシュタポの通訳を務めていた第二次世界大戦中にゲットーのユダヤ人を脱出させた実在の人物「ブラザー・ダニエル」への取材に基づく長編。ブラザー・ダニエルは後にカトリックに改宗、イスラエルで教区司祭になっている。主に書簡の形で多様な背景を持つ人々が対話し、国や宗教の枠を超えた多元的な社会の在り方を模索する。

<推薦:松下隆志・岩手大学准教授>

④ウラジーミル・ソローキン

『親衛隊士の日』(松下隆志訳、河出文庫)

 独裁的な指導者が恐怖政治を敷く2028年のロシアを描いたディストピア長編。「陛下」の忠実な親衛隊士によって語られるのは、愛国主義の蔓延、西側との断絶、天然資源による脅し、中国経済への依存……。16年前に書かれた作品ながら、「プーチンのロシア」の未来を予言したとして、今回の軍事侵攻後に再び注目を集めている。

<推薦:松下隆志・岩手大学准教授>

⑤クセニヤ・ブクシャ

『内へ開く』(松下隆志訳、東洋書店新社『現代ロシア文学入門』に所収)

 サンクト・ペテルブルグが舞台の連作短編集。郊外を走る306番マルシュルートカ(ロシアの乗り合いバス)を利用する、様々な問題を抱えた人々の日常が多角的に物語られる。巻頭の短編「アーシャ」は子どもを作れないがために孤児の養子を探す女性が主人公で、現代ロシア社会における複雑な家族の在り方を謎解き風に描き出す。

<推薦:松下隆志・岩手大学准教授>

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