企業のマーケティング能力を高める六つの考え方 上原渉
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製品の品質が素晴らしくとも、ビジネスの成功とは別だ。ヒントはマーケティングにある。
営業経験だけで優れたマーケターは育たない
自社製品の品質には自信があるが、思ったように売れない。いわゆる「技術(モノ)で勝ち、ビジネスで負ける」という話は、日本企業でよく聞く話だ。原因はさまざまだと思うが、マーケティングの視点から検討すると、一つの原因を指摘できる。
消費者向けの市場(一般にBtoC市場)では、新商品のほとんどが失敗に終わり短期間で消えてしまう傾向にある。そんな中でも、毎年、多様なヒット商品が生まれる。年末が近づくと、ヒット商品ランキングがメディアで報じられ、その商品のマーケティング担当者の思いや開発秘話が語られる。
こうした話を読むと、厳しい市場環境であっても、優れたマーケティング担当者は着実にヒット商品を生み出していることが分かる。この、マーケティングの専門職である「マーケター」たちは、消費者や市場を観察・理解した上で、隠れたニーズを見つけ出し、自社の技術力と結びつけることによって、魅力的な商品を企画する。
さらには、企画実現のために、社内のさまざまな部署を巻き込むリーダーシップを兼ね備えている者も少なくない。こうした優れたマーケターが社内にいることによって、日本企業が蓄積した技術力と商品開発力が、売り上げや利益に結びついている。
しかし、こうした人材が必要だと考えても、どのように育成すべきか分からない、という企業も多いだろう。ヒット商品同様、優れたマーケターも「偶然生まれるもの」になっている。
一方、外資系の消費財企業や化粧品会社の出身者が、日本のさまざまな企業でマーケティング担当役員として活躍している状況を見ると、優れたマーケターが育つための組織的な仕組みがこうした企業にはあると考えられる。偶然に頼るのではなく、日本企業の組織としてのマーケティング能力を高め、優れたマーケターが育つ土壌を作る必要がある。
川上から川下までの視点
日本企業のマーケティング担当者の職務経歴を調べると多くが営業職の経験者だ。新卒入社後、すぐにマーケティングの担当になるということは少ない。営業職を経験することで、自社製品を取り扱っている流通・小売企業などのパートナー企業について理解を深めたり、消費者の反応を間近に観察できたりする利点があるのだろう。こうした経験がマーケティングを行う上で全く役立たないとはいわないが、これらがマーケティングの中心的な仕事とはいえない。
従って、営業職の経験が優れたマーケティング担当者の育成につながると期待しているとすれば、それは誤りだ。営業とマーケティングの仕事は明確に違う。実際、先述したような外資系出身のマーケターで、営業職からキャリアをスタートした人は少ないだろう。
営業職の内容が消費者(あるいは取引業者)のニーズに合わせた商品・サービスを提案し、契約につなげる仕事だとするならば、マーケティングは売るための仕組みを考え、多くの消費者に向けて価値を創る仕事だ。販売にかかわる点では似ているが、目的や活動の範囲は大きく異なる。
価値を創るためのマー…
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週刊エコノミスト
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