経済・企業エコノミストリポート

デジタル化進むタクシー業界こそ高齢者雇用の試金石 坊美生子

一部企業では若手の積極採用も始まっているが… (本文と関係ありません)
一部企業では若手の積極採用も始まっているが… (本文と関係ありません)

 年金制度や労働法の改正で働く高齢者が増え続けるなか、タクシー業界でドライバーの高齢化問題が浮き上がってきた。

運転手の定年年齢は実質「青天井」

 近年、高齢ドライバーによる交通事故が相次ぎ、国や自治体は運転免許の自主返納を進めている。無理に運転を続けず、「外出する際は公共交通の利用を」と呼びかけ、タクシーのクーポン券を発行する自治体も多い。しかし、タクシー業界でも高齢ドライバーの増加が大きな課題になりつつある。

 タクシー事業には法人と個人があり、それぞれで業界団体が分かれる。一般社団法人「全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)」と一般社団法人「全国個人タクシー協会」の資料から、ドライバーの年齢分布を整理したものが図1である 。

 これを見ると法人・個人のいずれにおいても、ドライバーが最も多い年齢は「70~74歳」、法人・個人を合わせると、全ドライバーの2割弱をこの年齢層が占めている。次いで多いのは「65~69歳」と「60~64歳」で、いずれも全体の1割を超える。さらに注目したいのは「75歳以上」で、法人・個人の合計は全体の1割弱に上る。この中には80歳台のドライバーも含まれている。

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、タクシードライバーの平均年齢が60歳を超えていることが明らかになっているが、70歳代前半がその主軸を担い、75歳以上も1割近くに上るということは、おそらく一般の消費者には知られていない事実だろう。

 人は加齢に伴って、心身機能が低下していくとされている。その中で特に交通事故に結び付きやすいのは、視力(視野を含む)の低下、反応の速度・正確さの衰えなどである。夜間にモノが見えづらくなったり、交差点などの複雑な交通環境で、迅速に適切な反応ができなくなるというものだ。

死亡事故リスクは2倍

 警察庁の統計によれば、2021年における免許人口10万人当たりの死亡事故件数は、75歳未満が2.6件であるのに対し、75歳以上は5.7件と2倍以上に増加する。その差は過去15年で縮小してはいるものの、依然、開きがある(図2)。

 また、実際の死亡事故の人的要因を比較すると、75歳以上のドライバーは、75歳未満に比べて「操作不適」(運転操作のミス)の割合が大きい(図3)。ハンドルの操作ミスやブレーキとアクセルの踏み間違いなど、状況に応じたとっさの判断・操作ができなかったパターンが多いということだ。

 このように、75歳以上のドライバーは運転時の事故リスクが高い。そのため、道路交通法でも、75歳以上になると運転免許証の更新の際に、運転技能検査(違反歴が有る場合)や認知機能検査を受ける必要があり、検査に引っかかると免許の更新が認められない可能性が出てくる。

 高齢ドライバーの雇用に関して、タクシー業界ではどのようなルールが敷かれているのか。

 タクシー業界には他業界とはまた違った特徴がある。それが「定年」の取り決めだ。一般的には、個人タクシーのほうが、法人タクシーよりも高齢ドライバーが多いイメージがあるかもしれない。しかし、実際の法令の定めは逆で、個人タクシーには定年が設けられているのに対し、法人タクシーは各社が任意で雇用管理を行っており、明確な上限年齢が設けられていない。

個人から法人へ転職

 全タク連の発表によると、法人タクシーのうち定年を定めている事業者は全体の約8割、残りの2割は定年を定めていない。さらに定年を迎えた後に再雇用する場合の上限年齢は、74歳以下としている事業者が約3割、75歳以上が約2割、上限を定めていない事業者が約5割となっている。

 つまり、多くの法人タクシー会社では、少なくとも制度上は75歳以上もドライバーを続けることが可能なのだ。このため、個人タクシーで定年を迎えた後に、法人タクシー事業者に転職する事例もあるという。

 また、個人タクシーについても定年が定められたのは最近の話で、02年に運用基準が変更され、事業が認められるのは75歳の誕生日前日までとなった。ただし、02年より前から個人タクシー事業を行っている人には年齢制限が適用されない。…

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週刊エコノミスト

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