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「考えよ、問いかけよ」福島原発「国会事故調」委員長を務めた黒川清さんが新刊出版

考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える(毎日新聞出版)
考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える(毎日新聞出版)

 UCLAや東京大学などで教鞭をとり、東京電力福島第1原発の国会事故調査委員会委員長も務めた黒川清さんが、新刊『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』を毎日新聞出版から出版した。世界と日本で医学教育に携わり、元日本学術会議会長としても日本の科学行政も長く見つめてきた実績を踏まえ、日本の高等教育システムの課題、若い人たちへの実践的な提言を縦横無尽に語っている。

 本書の「はじめに」からその思いの一部を紹介する。

 これまで日本は人材を育成する国家戦略として「上から言われたこと、決められたことは忠実にやる」という視点は重視しても、「自分の力で課題を発見し、それを解決できる人材」を育成するという視点が欠けていたと言わざるを得ませんでした。これでは、時代と共に次々と新領域へと進展する科学技術のグローバルな競争にはついていけなくなります。

 事実、かつては世界である程度のポジションを築いていた日本の研究力が衰退してきています。経済の実績を見ても、主要先進国の中で唯一停滞しており、「失われた30年」などといわれています。日本が過去の「モノづくり神話」に酔いしれている間に、アメリカでは、GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック〈現・メタ〉、アップル、マイクロソフト)に代表される新興企業群が世界をリードしてきました。

 世界史に残る東京電力福島第一原子力発電所事故から、すでに10年以上の月日がたちました。日本憲政史上初の独立委員会である国会事故調査委員会の調査と報告によって、事故の起こった原因の指摘と提言の提示を受けたにもかかわらず、誰一人として責任をとらず、国会事故調査委員会が提言した「7つの提言」は棚ざらしにされたまま、「フクシマ」は風化を始めています。

 世界はものすごい勢いで変わってきていますが、その変化に対応しなければならない日本の社会と日本人の思考は、旧態依然として変わったようには見えません。日本学術会議会長、内閣特別顧問、国会事故調査委員会委員長、そして本業である内科医師として、私はこの半世紀あまり世界と日本という国の変転とそれに対応できない日本の弱点、いや「病巣」ともいえる側面を見てきました。大学人として、また医師として海外で暮らす時期もありましたが、日本は私にとって祖国であり、この「病巣」をなんとか「治療」できないかと、機会があれば国のリーダーとされる人たちに働きかけてきました。

 そんなことを続けているうちに、私ももう80代半ばを過ぎました。最近は「自分の人生もずいぶん終盤にきたな」と実感するようになりました。そこで「なぜ日本は変われないのか」「どうすれば変われるのか」について考察し、その結論を文字として残し、これからの日本を担う若い人たちに伝えておこうと思い、この本を書きました。

『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(黒川清著、毎日新聞出版刊)の「はじめに」より


28日に出版記念講演会 「どうする日本、このままでいいのか」

 本書の出版を記念した黒川さんの講演会が28日14時、東京都新宿区新宿3の17、紀伊國屋ホールで開かれる。

 認定NPO法人21世紀構想研究会が主催する。第2部では、元慶応義塾塾長、安西祐一郎さんが黒川さんと徹底討論する。

 入場無料、定員先着200人。申し込みは左記のQRコード、またはメールinfo@kosoken.orgで同研究会へ。

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