水膨れ金融経済の日米欧よりロシアが優勢な理由 市岡繁男
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政府債務が少なく経常収支や対外純資産が黒字のロシアは、その真逆の状態にある「米欧金融資本主義」の弱みを突くことに成功しつつある。>>特集「歴史に学ぶ 戦争・インフレ・資本主義」はこちら
2021年9月、ロシア中央銀行は年次金融予測の中で、「1年半以内にリーマン・ショック級の金融危機が起きる可能性」を指摘した。物価上昇に直面した米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを余儀なくされ、世界経済は急激に悪化するというシナリオだ。プーチン露大統領は金などの実物資産の裏付けがない不換紙幣で水膨れする資本主義の弱さを知り尽くしている。
ウクライナと戦争になった場合、米国など西側諸国の弱点を突くにはどうしたらよいのか、ロシアはもう何年もの間、金融面を含むあらゆる戦術のシミュレーションを行ってきたはずだ。
外貨準備は世界5位
いま思えば、昨年のロシア中央銀行のリポートは、ウクライナ戦争に加担し金融危機になってもよいのか、という西側諸国に対する警告だったように思う。
ロシアは食料もエネルギーも自給自足できている。外貨準備は世界5位で、経済制裁の対象となり得る米国債は持たず、全体の2割超を金で保有。経常収支や対外純資産も黒字で、政府債務残高も国内総生産(GDP)の17%しかなく、借金漬けの西側諸国とは対照的だ(図1)。金利が上がっても痛くもかゆくもないのだ。一方、米国は借金漬けだ。非金融部門(政府、家計、企業)の債務総額を名目GDPで割った債務比率は、直近のピークは285%で大恐慌期の1933年以来の水準にある(図2)。
超低金利に支えられて積み上がった巨額の債務は、僅かな金利上昇で返済不能となる危うさを秘めている。実際、米連邦政府債務に対するネット利払い額(金利の支払い−受取額)は今年7~9月期、前年比65%も増加しており、最大支出項目である社会保障費を上回るのは時間の問題だ。
そんな状況ながら、米政府によるウクライナへの財政支援は、今年2月の戦争勃発以来、85億ドル(約1.2兆円)に達しており、今後、更に増額される公算も大きい。
こうした過剰債務という弱点を突くべく、ロシアは必需品である石油や天然ガス、肥料の西側諸国への輸出を制限し、インフレを加速させようとしている。その結果、金利が上昇し、債券や株式が暴落したら、西側諸国はウクライナ支援どころではなくなるからだ。そしてロシアの狙い通…
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週刊エコノミスト
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