IT進化で可能になった「モノのサービス化」が価値を生む 上原渉
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製品のコモディティー化が進む市場では、モノのサービス化が付加価値を生み出す。
BtoBでは顧客の問題解決を通してサービスの差別化を図る
音楽や映画・動画などのコンテンツの消費においては、サブスクリプション・サービス(定額配信サービス、以下サブスク)が一般的になってきた。かつて消費者は、特定のアーティストのCDを買うことで音楽を聴いていたが、現在はSpotify(スポティファイ)やApple Music(アップルミュージック)などの音楽配信サービスに定期的に料金を支払うことで、数千万曲という膨大な量の音楽にアクセスし、聴きたいだけ音楽を楽しむことができるようになった。
映画も同様で、映画館やレンタルで特定の映画を楽しむという消費から、Netflix(ネットフリックス)やAmazonプライム・ビデオといった動画配信サービスによる視聴へと変わりつつある。
このようなサブスクは、音楽や動画のようなインターネット経由で手に入れることができるコンテンツにとどまらず、最近では食品や服、家具、自動車に至るまで、物理的なモノのサブスクも続々と登場。消費者はモノを「購入し所有する」ことから、モノを「利用する」ことに価値を感じるようになり、モノの所有権を有しているかどうかは重要ではなくなってきている。
結果、代金の支払い方法は、購入時点にまとめて支払う方法から、モノを利用した分だけ支払う方法へと変わった。裏を返せば、これまでモノを販売することによって利益を得てきた製造業の企業は、モノの利用を中心としたサービス・ビジネスへと変化することを求められている。
マーケティング研究では、企業活動の本質は製品やサービス自体の提供ではなく、顧客に価値を提供することにあると考えている。
古くはハーバード・ビジネススクール教授だったセオドア・レビット氏が「マーケティング・マイオピア(近視眼的マーケティング)」という言葉で表現した。
つまり、提供するモノや機能に注目してしまう「近視」になると、自社製品と競合する他社の製品やサービスを狭く定義したり、代替品が登場する可能性を見誤ったりする恐れがある。したがって、顧客に提供している便益(ベネフィット)や価値に注目するべきだと考えている。
「穴」のためのドリル
レビット氏が指摘した有名な話として「ドリルの例」がある。工具のドリルを買う人は、ドリル自体が欲しいのではなく、それによって開いた「穴」が欲しいのだ、という話だ。顧客はより良いドリルではなく「穴」が欲しいのだから、ドリルを製造する会社は競合のドリルメーカーだけでなく、穴を開けるサービスを含めて競合している。つまり、「穴」の提供がビジネスの本質で、「ドリル」の提供ではないということだ。
こうしたビジネスに対する見方は、顧客がドリルを購入後、ドリルを使って「どのようなサイズの穴をいくつ開けたのか」を把握できなかった時代には、顧客に対する提供価値や競合状況を把握するための思考方法にとどまり、価値を中心とするビジネスにはならなかった。
しかし、情報技術の発展によって音楽の再生状況、映画や動画の視聴傾向、自動…
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週刊エコノミスト
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