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経済・企業 学者が斬る・視点争点

「幸福度」向上は社会的な利益 馬奈木俊介

ストレス度を改善すれば、企業の収益向上にもつながる
ストレス度を改善すれば、企業の収益向上にもつながる

 人生の最後は幸福度が上がると考えられていたが、筆者の研究では70歳まで低下する傾向にある。

幸福度低下を防ぐ手段は新たなビジネスチャンスにも

 ウエルビーイング(幸福)とは、肉体的・精神的、そして社会的にもすべてが満たされた状態のことを表す。幸福というと人それぞれと考えられがちだが、アンケート調査の結果を統計的に分析することで、共通の傾向が存在することが分かる。この結果を政策に生かすことで、人々の幸福度を上げることも可能だ。

 2010年の『米国科学アカデミー紀要』に掲載された「米国における心理的幸福度の年齢分布のスナップショット」と題した論文によると、米国ではウエルビーイングは年齢を経るに従って下がるが、50歳以降には増加した。人々のウエルビーイングは年齢とともにU字形を描く、という結果だ。これはこれまでの同様の研究内容と相違なく、人生は最後は豊かになるというものだ。

 ところが、最近の我々の研究室の分析で新たな結果を得ることになった。筆者は米国に本社を置く世論調査企業ギャラップの学術アドバイザーを務めている。このギャラップが持つ163カ国約160万人の09~22年のウエルビーイングについて統計的に分析を行ったところ、年齢を経るにつれてU字形に回復するのではなく、70歳まで低下傾向にあることが分かったのだ。

 そうであるならば、事前の十分な準備をした上で人生後半に臨んでいく必要がある。年齢によってウエルビーイングが減じるのは、精神的あるいは身体的な健康、人生に対する態度などさまざまな要因が考えられる。そしてこれらの要因が、最終的にウエルビーイングに影響を与えることになる。マイナス要因が分かるならば早めに解決をし、制度的に防ぐことができるならばビジネスチャンスにもなるだろう。

ストレスが生む生涯賃金の損失は1人平均6000万円

 日本人のウエルビーイングにとって重要な事項について分析を行った結果、生活全般に関わる項目は上位から①家族との関係、②所得・財産、③生活環境、④友人・知人との関係、⑤余暇時間、⑥仕事、⑦教養・知識、⑧身の周りの自然──と続いた。

 経験的にも家族や友人たちとの関係や経済的な豊かさ、生活や職場の環境など、思い当たるところがある人も多いだろう。これらがうまくいかないことでストレスを感じることになる。

 ストレスは企業にとっても不利益をもたらす。メンタルヘルス・心の領域を中心に従業員支援プログラムを実施するピースマインド(東京都)やソーシャルアドバンス(神戸市)との共同研究によって、明らかになったことがある。

 それは、ストレスにより従業員が年間平均150万円相当以上の収入を失っているということだ。企業別に見てもこのストレスの分布は大きく変わらないため、業種に関係なく広く一般的であるといえる。

 そして、ストレスが改善されない場合、人的資本の損失は蓄積する。その結果、例えば65歳までの生涯賃金の損失は、男性従業員1人につき平均6000万円相当にも上ることになる。多大な損失だ。

 しかし、逆に考えれば、従業員のストレスレベルを改善することで、仕事の効率アップに…

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