経済・企業

半導体の対中規制“バイデンの一刺し”が生む波紋を注視せよ 高口康太

 バイデン政権が中国半導体産業への規制を強化している。その内容はデジタル化とAIの発展に大きな枷をはめるものだ。>>特集「半導体 反転の号砲」はこちら

中国のデジタル化やAIの進展に暗雲

「バイデンは中国の心臓を正確に貫いた。声が大きいだけだったトランプとは違う」

 ある中国IT企業関係者の嘆きだ。トランプ政権下の米国は中国製品に対する関税を引き上げたほか、多くの中国企業を輸出管理規則に基づく規制対象に指定してきた。特に焦点となったのが半導体関連だ。しかし、規制は必ずしも実効性を持っていなかった。例えば、中国半導体製造大手のSMICは2020年12月にエンティティーリスト(EL、禁輸対象リスト)に指定されたが、半導体不足を追い風にその後も好業績を上げている。唯一、大きなダメージを受けた企業が通信機器・端末大手のファーウェイだが、独自の規制が採用されたことが要因だ。今回、バイデン政権は規制を大幅に強化したが、それはファーウェイを苦しめた規制をより広い範囲に拡大するものともいえ、その破壊力は圧倒的に大きい。

半導体製造にも制限

 今夏以降、米政府は中国に対する半導体規制を矢継ぎ早に強化している(表)。複数の規制が組み合わされた複雑な内容だが、高度なデジタル化とAI(人工知能)活用という産業の未来に、強力な枷(かせ)をはめるものである。

 10月21日に施行された先端コンピューティング直接製品規制では最先端の半導体チップおよびそのチップが組み込まれた電子機器を中国向けに販売することが禁止された。軍事関連の企業だけではなく、中国向けはすべて禁止というカバー範囲の広さが特徴的だ。中国政府が軍民融合(民間資源の軍事利用)を推進するなか、規制の網を民間企業にまで広げる必要があると米国は判断している。

 中国は米国と並ぶAI大国として知られる。AIの開発にはコンピューティング能力、アルゴリズム、データの3要素が必要だ。アルゴリズムとデータは独自に保有しているが、コンピューティング能力、すなわち半導体チップについては海外に依存してきた。特にGPU(画像処理装置)についてはAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)、エヌビディアと米国企業がトップシェアを誇る。

 コンピューティング能力が不足すれば、AIによるリコメンド能力の高さから世界的な人気を集めるTikTok(ティックトック)などのインターネットサービスから、製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)、ビッグデータを使った各種分析サービスまで、広い分野が影響を受ける。中国が世界をリードするEV(電気自動車)でも車載半導体の性能が制限されれば、競争力を失う恐れもある。それだけではない。中国在住のある日本人研究者は「規制によって入手できなくなる前にGPUを購入しないかとの営業があった」と話している。軍事に関係しない、研究分野にまで影響が…

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週刊エコノミスト

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