欧州経済を袋小路に追い込む「ロシア産エネルギー依存」という病理 渡辺浩志
欧州経済が窮地に陥っている。10月の消費者物価指数は前年比10.7%上昇と、統計開始以来の最高値を記録した。ウクライナ危機に伴う食料やエネルギー等の供給制約が引き起こしたコストプッシュ・インフレであり、ロシア産の天然資源に依存し過ぎたツケでもある。
これにより欧州の家計購買力は損なわれ、消費者心理は新型コロナウイルス禍が始まった直後より暗い。個人消費の腰折れは不可避だろう。
インフレは家計を疲弊させるが、エネルギー不足は企業に打撃を与える。図1の通り、ロシアへのエネルギー依存度が特に高いドイツの企業景況感は悪化が顕著だ。ドイツは欧州経済のけん引役であるため、その景況感は欧州全体の経済成長率を左右する。この図は、欧州経済が年内にも市場予想を超える深いマイナス成長に陥る可能性を示唆している。
無理な賃上げも裏目に
更なる問題は、不況下の賃金上昇だ。労働組合が強い欧州では、インフレが進めば、労働者の生活を維持すべく速やかに賃上げ要求が高まる(図2)。だが、生産性の向上を伴わない無理な賃上げは、企業収益を圧迫し欧州経済をスタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)へと追い込む。
欧州中銀は賃上げと値上げの連鎖を防ぐべく金融引き締めを急ぐが、それは景気を一段と冷え込ませよう。また、欧州市場からのマネーの退潮で債券安・通貨安・株安のトリプル安が進んでおり、これも傷口に塩を塗る。金利上昇が…
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週刊エコノミスト
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