戦場に近い欧州でインフレが止まらない 藻谷俊介
米連銀は11月2日に再び大幅な利上げを決定したが、各国の金融市場は既につけたピークを超える動きは見せていない。長期金利は頭打ち、株価も上昇機運を示す。相場が米連銀の思考より低下するリアルタイムのインフレ率に即した動きに回帰したのは好ましい。だが、問題はすべて消えたわけではない。欧州のリアルタイム・インフレ率が、ここに来て逆に上昇する気配を見せている。
図1は欧州連合が合成している欧州全体の消費者物価指数(CPI)を、当社でリアルタイムの推移に換算したものだ。過去にも説明したが、ここでのリアルタイムというのは、慣習的な1年前との物価比較ではなく、季節調整をかけた上で3カ月の短期変化で見た、より足元のインフレ率である。
世界全体でのリアルタイム・インフレ率はほぼ平均に回帰しており、遅れていた米国も8〜9月で急速に正常化した。しかし図1を見ると、欧州だけは1度は順当に低下するように見えたインフレ率が高止まりして、ともすれば再加速するような動きになっていることが分かる。そもそも欧州のインフレが並外れて激しいことも特徴的だ。ピークで年率約15%、今も年率10%を超えたままだ。
こうなった原因は何なのか。やはり、それは近くで戦争が起きているからだと考える。欧州と米国のリアルタイム・インフレ率を比べると、2022年初時点では、どちらも年率8%程度で差がない。だが、それ以降は欧州が米国をあっさりと抜いていく。こうした特殊性は、戦争で説明するのが一番妥当だと思われるのである。
生産者物価も上昇
さらに困ったことに、より川上の企業間価格を表す生産者物価指数(PPI)が、欧州でのみ再び激しいインフレ…
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週刊エコノミスト
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