「中国経済失速」報道は“木を見て森を見ず”の典型である=藻谷俊介
過去3回の当コラムで、リアルタイムで見たインフレは減速してきていること、景気は良好でインフレは吸収可能であることなど、悲観的なコンセンサスとは異なる見通しを数字とともに示してきた。幸い、そのことが理解されるようになると金融市場も落ち着きを取り戻し、世界的に金利は低下し、株価も回復してきた。
大インフレ懸念からスタグフレーション懸念、リセッション懸念へと変化してきた世界の悲観的論調は、行き場を失い、足元では中国経済の減速を懸念する方向に向かっている。しかし、筆者はこれも間違っていると思っている。
リアルタイムで景気波動を見るには、実態に遅行する前年同月比を排し、中国の統計にも季節調整をかける必要がある。すると、実際の中国経済は上海ロックダウンの4月こそ軟調だったが、5~6月には急回復を果たしていることが分かる。7月には感染再拡大の影響が心配され、一部にマイナスはあったものの、僅かである。
今回紹介するグラフはその代表的なものである。
中国の鉱工業生産は7月に反動減もなく上り詰め、あっさりと史上最高値を更新した(図1)。内訳を見ると、総合景気を反映する発電量、電力使用量はいずれも続伸して史上最高値を記録。自動車生産はぎりぎり史上最高値更新を逃したが、自動車販売台数は最高値を更新している。こうした全体像を見ずに、統計の伸びが市場予測を若干下回ったことや、苦境下にある企業の数例のみを挙げて、「中国経済が失速」と報道するのはいかがなものだろう。
消費は最高水準が継続
需要サイドを見ても、7月は小売売上高に反動減が出たが、グラフの通り無視できるほどであるし、史上最高水準の消費が続いているこ…
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週刊エコノミスト
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