米国の中国半導体規制、長くは続かない 豊崎禎久
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バイデン政権が対中半導体規制を強化。しかし、少なくない同盟国が追随に消極的で、制裁効果は限定的な可能性がある。>>特集「半導体 反転の号砲」はこちら
鍵を握る米国ロビーとドイツ
現在の米中対立は、かつての日米半導体摩擦とうり二つのことを米国がやっている。日米半導体摩擦の日本のところを中国に置き換えて考えればよい。米国は世界一ということに対して敏感で、自らを超えられると相手を徹底的にたたいて、その産業構造を潰して自分たちのものにする。それが日米半導体摩擦で米国が日本に対してやったことである。その構図は第二次世界大戦の時のABCD包囲網と同じで、最先端の半導体、製造装置、材料、そしてエンジニアが中国に入ることを止めようとしている。しかし米国の中国への規制は短期では効くが、中長期では米国が自国および関係国をグリップできないだろう。
現在の米中対立においては、かつての日米半導体摩擦での米国政府主導のやり方は通用していない。ICT(情報通信技術)が関連するデジタル分野はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック〈現メタ・プラットフォームズ〉、アマゾン)やテスラなど民間企業が主導する動きになっているため、必ずしも政府がグリップしきれていない。米国は中国に最先端技術を提供することを禁じているが、例えば、テスラが中国で生産している自動車には回路線幅7ナノメートルのAI(人工知能)半導体が搭載されており、2026年には5ナノメートルのAI半導体を搭載予定だ。
米産業界がロビー活動
米国のバイデン政権はトランプ政権の対中政策を引き継いだように見えるが、極端な方向に振れている。中間選挙を見ても、バイデン政権に反対する意見も根強い。
そしてSIA(米国半導体工業会)や半導体産業からの反発がある。今や中国は世界最大の電子機器・自動車市場を背景にした半導体製造装置の大消費市場であり、製造装置メーカーは中国に製造装置を売ってビジネスを広げていきたい。しかし米国政府の規制が続くと、製造装置大手のアプライドマテリアルズやラムリサーチ、KLAにとっては、世界最大の市場である中国に高価な最先端の装置が売れなくなり、大きな痛手になる。自分たちの経済活動ができなくなることを恐れて、米国の半導体産業が騒ぎ始めている。
米国はロビー集団の力が強いため、民間レベルで騒ぎが起こって圧力をかけてきたとき、政権はまずいと判断したら軌道修正する方向に動く。実際に米国商務省の次官補は規制範囲を狭める趣旨の発言をしている。
今後半導体市況が下降局面に向かう中で、米国が中国に制裁を続けることでマイナス成長に陥った場合、産業界からV字回復を求める圧力がかかり、対中制裁は緩和する方向に動くだろう。米国については、今後の半導体業界のロビー活動次第ともいえる。
米国の同盟国は短期では、米国に追従せざるを得ない。
日本は経済安全…
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週刊エコノミスト
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