経済・企業 日本経済総予測2023
インバウンド消費は欧米人に勢い アジア頼りの大阪は低調 黒須宏志
2023年の訪日観光客は欧米客を中心に「東高西低」の展開となりそうだ。
日本政府観光局(JNTO)の推計値によれば、2022年10月の訪日外国人客(インバウンド)の入国者数は約50万人に上った。新型コロナウイルスの影響がなかった19年10月と比べると80%減だ。
大幅に少ないが、政府は22年10月11日に個人旅行客の入国を解禁したばかり。最初の10日間に入国した観光客はパッケージツアー客だけだった。出だしが好調なのは韓国、米国、シンガポールなどだ。韓国の伸びが大きいのは19年に反日運動などが影響して訪日客数が少なかったことも影響しているが、22年の円安で日本滞在費用が安く感じられるようになったことも大きいだろう。1位の韓国は約12万人、2位の米国は約5万人だった。
戻りが遅い中国客
一方、戻りが遅いのが中国。19年10月は73万人を超えていたが、22年10月は約2万人に過ぎず、97%減だ。「ゼロコロナ」政策が続く中国では、外国から戻った人は何日も隔離する必要がある。海外旅行を楽しむ余裕はないのだ。台湾も92%減。水際対策が残っていることに加え、感染に対する警戒感も影響しているようだ。
22年11月以降は個人旅行客を中心に増加基調が続くと見られる。心配しているのは航空便の増便が順調に進むかどうかだ。
英ロンドンのヒースロー空港など世界各地で22年夏、空港職員の不足から乗客の手荷物があふれ返るなどの混乱が発生し、大規模運休につながった。20年に新型コロナウイルスの感染が拡大してから航空需要が落ち込み、世界中で空港職員の多くが職を失った。別の職に就くなどして、感染状況が落ち着いた後も空港の職場に戻らない人が少なくなかった。空港には特殊な車両や機械を使う職種が多く、未経験者を雇ってもすぐに働けない。
日本の空港でも今後、同じようなことが起こって人手が不足し、増便が思うように進まない事態が考えられる。また、債務を増やした航空会社は確実に座席が売れる路線を厳選するだろう。それらの状況が重なって、日本を旅したい外国人の数に見合うだけの航空便を確保できるかどうかが23年の課題になると考えられる。
23年のインバウンド市場を大きく左右するのは中国の動向だ。「共産党大会が22年10月に閉幕後、中国当局が感染対策の緩和に動く」という見立てがあった。実際には緩和の程度はわずかで、中国人の海外旅行が大きく増える結果にはなっていない。23年1月下旬の春節(旧正月)連休に中国人客が戻るかどうかに関心が移ったが、22年11月から中国各地で感染者が大きく増えていることを考えると、楽観的すぎるだろう。
中国の戻りが期待しづらいことから、23年のインバウンド市場はよくて19年の半分ほどではないだろうか。特段の根拠があるわけではないが、19年水準に戻るのは25年ごろになるのではないか。
23年は19年の半分
19年、インバウンドの総数は3188万人、旅行消費額は4兆8135億円だった。23年の総数が19年の半分とすれば、旅行消費額は19年の半分プラスアルファの2.5兆円ぐらいとなるのではないか。プラスアルファは円安の影響でショッピングの消費額を増やす分だ。10月のデータを見ると、ヨーロッパ人や米国人の入国者数に勢いがある。欧米人は旅行日数が長いこともあり、1人当たりの消費額は中国人に近い。19年の観光庁データによると、中国約21万円に対して英国とフランス約24万円、ドイツ約20万円、米国約19万円だった。
インバウンドの消費動向から国内観光地の特徴を見ると、東京と大阪はだいぶ違う。東京はいろいろな国のインバウンドが来るが、大阪は中国、台湾、香港、韓国といったアジアの比重が非常に高い。インバウンドは大都市でショッピングをすることが多い。中国や台湾の戻りが遅いと考えると、23年は東京のほうが強いのではないか。
台湾では海外旅行を自粛するムードがあるが、春節に向けて大きく変わる可能性もある。近隣国の人たちは平均滞在日数が短いだけに1人当たりの消費額は少ないが、訪日者数が増え始めると勢いがつきやすい。そうなると大阪も盛り返すだろう。ちなみに台湾の1人当たりの消費額は約12万円と韓国の約8万円よりだいぶ多い。
観光庁の調査では、19年時点では初めて日本に来たという人がインバウンドの35.8%を占めていたが、23年はリピーターの比率が高まるだろう。回復局面では以前来たことがある人の割合が多くなるという見方が多い。ショッピングに関しては土産物より自分が欲しい物を買う傾向が強くなるだろう。つまり、空港内などの土産物店より化粧品や医薬品などのドラッグストアのほうが客が集まりやすいだろう。宿泊施設は必ずしも交通利便性が高くなくても、前に訪日して気に入った場所を選ぶ人が増えるかもしれない。
(黒須宏志・JTB総合研究所フェロー)
週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載
インバウンド消費 欧州や米国人客に勢い 大阪より東京が好調=黒須宏志