マーケット・金融 世界経済総予測2023
欧州の引き締め策に潜む金融危機の芽 要警戒は重債務国イタリア 土田陽介
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欧州の歴史的な高インフレは対露関係悪化によるエネルギー危機が主要因で、利上げ政策の効果は限定的だ。
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欧州中央銀行(ECB)が利上げを進めている。ECBは2022年7月の政策理事会で11年ぶりとなる利上げ(0.5%)を実施、その後9月、10月の理事会で0.75%ずつの利上げを行った。また11月以降、ECBの高官は量的引き締め策(QT)に着手する必要性について相次いで発言し、さらなる金融引き締めに向けた地ならしに努めている。
ECBが金融引き締めを進める背景には、歴史的な高インフレの存在がある。22年11月の消費者物価は前年同月比10.0%上昇と、前月に続き2ケタの伸び率になった(図1)。強いインフレ期待(将来のインフレ率の予想)が定着することを回避すべく、ECBは金融引き締めに注力する。しかし、インフレの主因は、欧州連合(EU)とロシアの関係の悪化に伴うエネルギー不足という、外生的な負の供給ショックにある。そのため、金融引き締めだけで物価の安定を達成することは難しい。
ECBにとっての悩みの種は、今回の金融引き締めが欧州の景気のオーバーキル(過剰引き締め)を招きかねないところにある。そもそも金融引き締めは、物価を安定させるために需要を抑制する政策であるため、景気の減速を伴う。とはいえ今回の場合は、エネルギーを中心とする物価の急騰を受け、欧州の企業はすでに業績が悪化しており、家計も所得が目減りしている。そのため、通常の金融引き締め局面よりも、景気が腰折れしやすい状況にある。
ドイツ経済の状況深刻
特に、欧州経済のけん引役であるドイツの状況は深刻だ。ドイツは20年時点で、天然ガスの総供給量(国内生産量+輸入量)の62%をロシアに依存(図2)。そのためドイツはEUとロシアの関係の悪化に伴うエネルギー不足の影響を強く受けることになり、エネルギー価格の前年同月比上昇率は消費者物価ベースで49.9%(22年10月)に、生産者物価ベースでは180.1%(同9月)にも達した。
ドイツのショルツ政権は、エネルギー価格の上昇を抑制すべく、9月29日に総額2000億ユーロ(約28兆円)の支援策実施を発表。ガスと電気に時限的な価格の上限を設けるものだが、各国との間で競争条件をゆがめるものだとして、EU各国の反発を招いている。また同政権は年内に稼働停止…
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週刊エコノミスト
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