ロシア経済を顧みないプーチン氏の戦争リスク 服部倫卓
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ロシアとウクライナの戦争は長期化の様相を呈している。少なくとも向こう1年ほどは戦争が続くことも想定せざるをえない。
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2022年2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して始まった戦争は、越年することが確定的となった。和平の機が熟すにはまだ当分、時間がかかりそうだが、米欧日により厳しい制裁を科せられる中で、ロシア経済の疲弊も指摘される。ロシア経済にはどこまで長期戦を戦うだけの体力が残っているのだろうか。
開戦から約半年後、戦況の大きな変化があった。ウクライナ側が反転攻勢に転じ、9月には東部の戦線で、要衝イジュームを含むハルキウ州のほぼ全域から、ロシア軍を駆逐した。ウクライナ軍は南部の戦線でも優勢に立ち、11月にはロシア軍がドニプロ川右岸(西岸)から対岸に撤退、重要都市のヘルソンがウクライナの支配に復した。
これに対し、ロシア側は10月中旬から、ウクライナの電力インフラに対するミサイル攻撃に出た。ただ、これはむしろロシアの弱さの表れだろう。戦場で敵の軍隊をたたくのが本来の戦争だが、今のロシアは戦場で思うように勝てないがゆえに、後背の都市部に戦略爆撃を加えて、ウクライナ国民と指導部の抵抗の意思を削(そ)ごうとしている。厳しい冬を迎える中で、電力や暖房の供給が滞り、ウクライナ国民は苦難を強いられているが、この揺さぶりにウクライナ側が屈する様子は見られない。
今後も、南部を中心にウクライナ側が領土を奪還していく可能性はある。ただ、たとえウクライナが占領地をすべて取り返しても、この戦争が終わるとは考えにくい。ロシアのプーチン政権は22年9月、ウクライナ東部ドンバス地方のドネツク州とルガンスク州、南部のヘルソン州、ザポロジエ州の4州をロシア連邦に編入すると一方的に決めてしまった。したがって、ウクライナが自国領を取り戻しても、今度はロシア側が「失地回復」を掲げ、侵攻を繰り返す公算が大きい。
「制裁下の焼け太り」
プーチン政権が和平交渉を望んでいるという見方もあり、水面下では米露の高官が接触しているとされる。しかし、ロシアはあくまでも、4州の編入などロシアの主張が認められるのであれば矛を収めてもいいとの立場であろう。対するウクライナのゼレンスキー政権は、占領地を軍事的に奪還することに自信を深めており、ロシアの条件をのむ形での和平に応じるとは考え…
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週刊エコノミスト
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