経済・企業

ついに“インドの時代” 人口世界一の見逃せない成長力 浜田健太郎/村田晋一郎(編集部)

バイシューズのバイジュー・ラビーンドランCEO(最高経営責任者)。コロナ禍でも事業の成長が目覚ましい Bloomberg
バイシューズのバイジュー・ラビーンドランCEO(最高経営責任者)。コロナ禍でも事業の成長が目覚ましい Bloomberg

 2023年は世界経済の構造が大きく変化する始まりの年になりそうだ。国連の予測によれば、経済成長著しいインドが23年、中国を抜いて人口で世界一となる。インドは27年には日本を抜いてGDP(国内総生産)で世界3位となる一方、中国の成長率は今後も低下を続ける見込みで、00年以降に2ケタ成長を続けて世界経済をけん引してきた中国に代わり、インドが世界の成長センターに躍り出る。

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 22年11月に開幕したサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会。アジア勢とアフリカ勢の健闘が注目を集めたが、サッカーコートを囲む広告板でもある変化が起きていた。家電のハイセンスなど近年目立つ中国勢とともに、インドのある新興企業が大会スポンサーの列に加わっていたのだ。11年に創業したオンライン教育のバイジューズ社である。

 バイジューズは未上場だが、推定企業価値は220億ドル(約3兆円)と、日本のパナソニックホールディングス(HD)の時価総額に匹敵する。バイジューズ社はすでに100カ国以上で事業を展開し、約1億5000万人以上の生徒にサービスを提供。米ブルームバーグ通信によると、バイジューズは22年6月、米同業2Uに約10億ドル(約1350億円)の買収案を提示するなど、M&A(企業の合併・買収)にも積極的だ。

 バイジューズの急成長の背景には、インドにおける教育熱の高まりがある。入学難易度で世界屈指のインド工科大学など、難関大学への入学を巡って受験戦争が過熱しており、幼児の段階から過酷な競争が始まっているのだ。他にも、ソフトバンクグループなどから大型の資金調達を成功させた同業のアンアカデミーなど、急成長企業が続々と生まれている。

 人口14億人超のインド。中国の後を追うように人口が増え続けていたが、国連が22年7月に発表した「世界人口推計」(22年版)によれば、インドは23年、中国を抜く見通しとなった(図2)。インドの人口は2060年代に17億人近くまで増える一方、中国は早ければ23年から人口減少が始まる。長く中国が人口世界一だった常識が大きく変わることになる。

 それだけではない。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(22年10月)によれば、インド経済は23~27年、5年間平均で6.5%の成長が見込まれ、一定の経済規模を持つ国では最も高い部類に入る(図1)。その結果、21年のGDPで世界5位のインドは、25年には4位のドイツ、27年には3位の日本を抜く見込みだ(表)。対照的に、中国は27年までの5年間平均で4.6%成長へと減速が予測される。

ITの強さの源泉

 新型コロナウイルス禍前の19年まで、10年間平均で6.9%の成長を続けていたインド。成長をけん引した産業の一つがITだ。グーグルのサンダー・ピチャイ氏、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏……。米国の有力IT企業のトップにはインド出身者もしくはインド系米国人がずらりと並ぶ。インドのタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やインフォシスは、ITシステムやコンサルティング分野で世界的大手だ。

 インドはなぜIT分野に強いのか。インド経済研究所の菅谷弘理事は、インド古来の階級制度カーストの影響から逃れられたことが要因の一つと指摘する。カースト制度では「ジャーティ」と呼ばれる細かな社会集団に分類され、職業が各集団に付随して維持されてきた。しかし、「『ITは新しい産業だからカーストの制約はない。将来のビジネスになる』と気付いた優秀な人たちが一斉に集まってきた」(菅谷氏)。

中国に代わる世界経済の牽引役(IT産業が集積するインド南部ベンガルール) Bloomberg
中国に代わる世界経済の牽引役(IT産業が集積するインド南部ベンガルール) Bloomberg

 インドは1991年、それまでの社会主義的政策から経済自由化政策に切り替え、発展の基礎を築いた。そして今、モディ現政権が注力する領域が製造業、特に半導体分野だ。コロナ禍によって中国などに依存していた電子部品やハイテク製品が供給制約に直面。また、20年5月には中印国境で中国との戦闘も発生し、「中国依存は危ないと考え、『インドの自立』を唱え始めた」(菅谷氏)という。

 インド政府は今後、半導体産業育成に5年間で7600億ルピー(約1.4兆円)の補助金を拠出するという。すでに、電子機器受託製造世界最大手の台湾・鴻海精密工業がインドの資源関連複合企業ヴェダンタと組んで、グジャラート州に半導体の新工場の建設をインド政府に申請している。総投資額は1.54兆ルピー(約2兆6000億円)にものぼる見込みだ。

 また、ベルギーの世界最先端の半導体研究機関imec(アイメック)は22年10月、インド政府とインドにおける技術支援を行うことで合意した。imecが供与する微細加工技術のレベルは、回路線幅28ナノメートル(ナノは10億分の1)かそれ以下と、最先端の半導体製品とは開きがある。しかし、インドで半導体を国産化するうえで、産業のエコシステム(経済的な生態系)を作る基礎固めとみられる。

ベトナム、インドネシアも

 インドは今後、消費市場としても大きな注目を集めそうだ。インドの1人当たりGDPは現在、2000ドル台だが、25年には家電製品や家具など耐久消費財の売れ行きが加速するとされる3000ドルを超すと見込まれる。インド経済に詳しい伊藤忠総研の石川誠上席主任研究員は「今後、生活の質を改善するための需要が期待でき、電力、道路、鉄道、通信、上下水道などインフラ整備も引き続き必要になるだろう」と語る。

 一方の中国。15年に「一人っ子政策」の廃止を決定し、21年には3人目の出産も認めたが、教育費の高さなどから少子化に歯止めがかからない。すでに生産年齢人口(15~64歳)は13年、約10億600万人とピークに達し、今後も減少が見込まれる。中国の社会保障制度や人口問題に詳しいニッセイ基礎研究所の片山ゆき主任研究員は「一人っ子政策が2世代(約40年)と長期にわたったことが大きく影響している」と話す。

 中国は今後も米国と肩を並べる経済大国へと成長を続けることは間違いない。しかし、「働く人が少なくなれば、税収や社会保険料など社会を支える経済的な資源が先細り、国が弱体化する」と片山氏。中国は足元でも、ゼロコロナ政策によって日常生活や経済活動が停滞し、国民の不満が鬱積。政府がゼロコロナ政策の見直しに追い込まれるなど、混乱は収まらない。

 27年までの5年間では、インドのように人口が増えるベトナムやバングラデシュなどで年平均6%以上の成長となるほか、エジプトやインドネシアなどは5%以上の成長が見込まれる。ナイジェリアやバングラデシュ、ベトナムは27年、アルゼンチンなどに代わってGDPの上位30位にも顔を出すとみられる。世界の構造変化の大きなうねりは、目前まで押し寄せている。

(浜田健太郎・編集部)

(村田晋一郎・編集部)


週刊エコノミスト2022年12月27日・2023年1月3日合併号掲載

世界経済総予測2023 「インドの時代」が幕開け 中国抜き人口世界一の成長力=浜田健太郎/村田晋一郎

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