経済・企業学者が斬る・視点争点

コロナ後の海外戦略の鍵は現地スタッフと駐在員の権限配分 上原渉

コロナ禍での海外現地法人と本社のやりとりの経験をどう活かせるか Bloomberg
コロナ禍での海外現地法人と本社のやりとりの経験をどう活かせるか Bloomberg

 海外市場で売り上げを伸ばすには、現地法人の販売への仕組み作り強化が欠かせない。

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 多くの日本企業にとって、海外市場での売り上げを増やすことは喫緊の課題である。国内の人口動態の変化、すなわち人口の減少や高齢化、少子化といった、確実に訪れる未来と、それに伴う国内市場の需要低下と売り上げ減少を考慮すると、海外市場での売り上げを増やすことは企業の持続可能性を高める手段の一つになり得る。

 かつての日本企業の海外進出といえば、安い労働力を求めて生産拠点としてアジアに進出する場合と、製造業を中心に技術と価格による差別化を武器に先進国に進出する場合が多かった。

 しかし2000年前後から、中国の急速な発展と東南アジア諸国の所得上昇に伴い、かつて生産拠点として進出したアジアは、巨大な販売市場へと変化した。日本企業は東南アジアとの地理的な近接性と親日的な環境、そして生産拠点としてすでに進出済みであるという経緯から、欧米の企業と比べて、有利な立場で市場開拓をスタートできたと思われる。

 実際、経済産業省の調査によれば、20年度末の全海外現地法人(2万5703社)のうち、アジアが67.5%、売上高も110.5兆円と、北米(12.6%、77.5兆円)や欧州(11.3%、35.2兆円)と比べても規模が大きい。

 また同調査によれば、アジアで生産されたものがアジア域内で販売される比率は79.0%と高い。アジアで生産し、アジアで販売するという循環が日本企業にとって重要な位置づけであると分かるだろう。

 しかし近年、技術力と価格競争力を持つ中国企業や韓国企業といった強力な競合企業の登場と、K-POPなどの韓流コンテンツの流行により、東南アジアにおける日本企業の優位性が揺らいでいる。海外市場、特に消費者向け市場としての魅力が高い東南アジアで売り上げを伸ばしていくためには、現地法人における販売のための仕組み作りが必要である。

現地への権限委譲

 海外事業のマネジメントと意思決定に重要な役割を果たすのが海外駐在員だ。駐在員は日本側との連絡・調整と、現地ビジネスの意思決定を行う。企業が駐在員を派遣する目的は、①知識・技術の移転、②海外事業のマネジメント、③駐在員自身の経験・学習──の三つに分けられる。②のマネジメントのうち、特に販売においては、自社製品・サービスと現地市場との適合が欠かせない。

 日本とは異質な海外市場で販売を行う前提として、現地の消費者や取引先、商慣行などについて詳しく知る必要がある。かつて東南アジアを生産拠点としてのみ位置づけていた時期には、進出した日系企業間での取引が多かったため、販売のための取引先(顧客)の知識は、日本人駐在員間のコミュニケーションによって獲得できた。具体的には、週末にゴルフに行ったり、日系企業の集まりに参加したりすることで、新しい取引や市場の動向について情報収集することができた。

 しかし、BtoC(一般消費者向け)ビジネスに関しては、このような駐在員のネットワークに依存する情報収集はできない。現地市場の消費者を観察したり、消費者…

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