インタビュー「インドで100万台増産へ」鮎川堅一スズキ副社長(編集部)
インド事業に精通するスズキの鮎川堅一・副社長に、インドの市場や事業計画について話を聞いた。(聞き手=加藤結花・編集部)
── インド市場をどう評価しているか。
■14億人を超える人口を抱え、近く中国を抜いて世界最多の国になるとされている。一方で、自動車の保有率でみると3%程度と先進国に比べるとまだまだ低い。これは裏を返せば自動車の販売が今後も伸びるポテンシャルがあるということだ。実際、私は2013年に現地の生産販売子会社マルチスズキインディアの社長に就任してから、インドの市場をずっと見てきているが、経済成長により中間層が厚くなっているという印象がある。そういう人たちが今後クルマを所有するようになっていくだろう。
加えて、14年から政権を運営するモディ首相は力強いリーダーシップがある産業フレンドリーな政治家で、自動車産業にも積極的に支援しており、政治的な安定感はある。
── スズキはインドの地場や韓国メーカーを押さえ、シェア1位だ。どのようにインドで受け入れられていったのか。
■マルチスズキインディアは02年にスズキが子会社化したが、1982年の設立はインド政府との合弁会社の形でその歴史をスタートさせた。当時の関係者の尽力で、パートナーシップが生まれ、受け入れられていった。管理職も工場のワーカーも同じ制服を着て、同じ食堂で食事をする、スズキ式のやり方も導入した。インディラ・ガンジー元首相からは「スズキはインドの労働文化を変えてくれた」との評価をいただいた。
私がマルチスズキインディア社長時代も月1回は、ワーカー代表とざっくばらんに話すようにした。文化や習慣の違いもある中で、平素からの交流を重要視した。労使関係は対立することもあるが、組織として最大の効果を出すには、「同じ船に乗っている」という意識で、協調路線を取ることがやはり重要だろう。
── ハリヤナ州に建設予定の新工場で100万台の生産を目指すと発表した。スズキのインドの生産能力は年間225万台。4割程度増やす計画だ。
■22年に公表した新工場は25年に生産開始予定で、将来的には100万台まで拡張できる。この工場の増強に向けての準備は何年も前から進めていた。人口増とともに需要も拡大し続けており、それに応える必要があった。現在の生産能力(225万台)では、1年もすれば追いつかなくなるだろうとみている。需要に応えるための増強だ。
需要でいえば、インド国内はもちろん、実はアフリカ、中南米、中東などインド国外にも輸出をしていて、そこも大きく伸びている。現在はインドで生産するスズキの自動車の約15%は輸出というところまで成長している。生産の拡大はこの輸出需要に応える意味もある。こちらも非常に期待している。
── インド工場のものづくりのレベルはどうか。
■ものづくりのレベルは日本と遜色ない。実際に過去、インドで生産した自動車を日本へ輸出したこともある。品質としては、欧米・日本にも自信を持って輸出できる。ただし、欧米や日本への輸出にはクリアすべき排ガス規制などのレギュレーションが多いので、そこに対応しようとするとコストが上がってくるということもある。インドで生産する自動車も、インド国内でなく輸出を含めグローバルな視野で構想している。
R&Dセンターを設立
── 今後、インドで注力していこうと考えているのは何か。
■スズキの100%出資のR&Dセンターをデリーに設立した(22年8月)。優秀な人材の育成・確保が目的だ。IT大国という言い方もされるようにインドは技術系人材の能力が高い。自動車業界においても自動運転などクルマに関する技術系人材の需要はますます大きくなっている。コロナ禍前は、インド人のエンジニアが日本へ来て、というふうにグループで交流していたがいったん途絶えてしまった。改めてインドでの採用活動を強化して、グローバルでのグループの競争力を高めたい。
(鮎川堅一・スズキ副社長、営業統括兼インド事業本部長)
■人物略歴
あゆかわ・けんいち
1980年4月鈴木自動車工業(現スズキ)入社。海外営業推進部総括グループ長、海外営業本部副本部長兼四輪アジア営業部長などを経て、2013年4月マルチスズキインディア社長(インド駐在)就任。17年7月副社長就任。22年10月から現職。
週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載
インド・新興国経済 インタビュー 鮎川堅一・スズキ副社長 100万台増産を準備 インドからの輸出拡大