国際・政治

インタビュー「部活は日本語禁止にしようかと」ヨゲンドラ土浦第一高校次期校長(編集部)

 今年4月に茨城県の名門、土浦第一高校の校長に就任する「よぎさん」ことプラニク・ヨゲンドラ氏に教育方針や日本のインド人コミュニティーについて聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)

>>特集「インド新興国経済」はこちら

── まず、自己紹介を。

■1977年生まれの45歳です。日本に来たのは90年代の2回の国費留学がきっかけです。2001年からはグローバルIT大手から派遣され、日本企業で働きました。06年ごろに東京・江戸川区の西葛西に引っ越してくると、結構、インド人コミュニティーに生活上のトラブルがあることに気づいて、コミュニティー活動を始めました。10年にみずほ銀行に入行し、19年に楽天銀行の企画本部長にスカウトされました。ただ、その2カ月後に江戸川区の区議に当選、2年務めました。その後、立憲民主党の公認で都議選に出ましたが、準備期間が足りず、落選。しかし、1カ月半の選挙活動で2万1000票を獲得し、結構、応援をいただいたと思っています。

── 土浦第一高校の校長職の話はどこから?

■インドの大学で教員をしたことがあり、何か日本の教育現場に関わりたいという思いは、自分の中でずっとありました。日本の公立学校がもっと国際化していかないといけないと考えていました。実は、私の息子が日本の公立の小中学校に通ったのですが、先生からいじめに遭い、結果的にギブアップして、イギリスに留学することになりました。そうした中、昔からの知り合いが、「茨城県で公立高校の民間校長を募集している」と教えてくれ、1773人の応募者の中から選ばれた3人のうちの1人になりました。

── 学校では生徒にどんなメッセージを。

■「多様な自分を考えていこう」と言っています。よく使う言葉が、「King of One, Jack of Many」。一つのスペシャリストの土台を持ったうえで、ゼネラリストであれと。これからは一つだけを知っていればよいという世界ではない。例え自分の専攻が化学でも、ある程度ITや金融のことも知っておかないといけない。

 もう一つは多言語です。土浦第一高校は名門進学校で生徒たちの英語のレベルは高い。しかし、しゃべることができません。先日も生徒たちと一緒にテニスをしたのですが、私が英語でしゃべると、やっと聞こえたという反応です。部活動での言葉は英語にし、日本語を禁止しようかと。誰にも気兼ねなく、気楽に英語で話せる場でありたいと思います。

── どんな人材を目指していますか。

■自らを分析し、それに基づいて自分の目標を考えていく人材です。そのために、自己分析のパターンと改善に向けての小さな行動の工夫を作ってあげたい。それから人格形成です。例えば、服装からスプーンやフォークのテーブルマナー。そして、プレゼンテーション能力。人前で自分のことを1分で、あるいは3分で話す、それを英語で行い、ディベートする。

 さらに、経営、金融とITについては基本的な理解を持たせたい。これが全部できた時に、探究の一貫として学校の行事を生徒たちに運営させるのです。

 私は今、このようなイメージを持っています。

東京・西葛西には3000人近いインド人が住む
東京・西葛西には3000人近いインド人が住む

── インド人コミュニティーの世話人もされています。

■新型コロナの感染拡大以降、減りましたが、それでも、東京都には1万4000人のインド人が住んでいます。江戸川区には5600人が住み、西葛西などはかなり集中していて3000人近くいます。保証人が不要なUR都市機構の集合住宅があり、緑も多いので子育てもしやすい。近年、インド人学校が西葛西に移ってきたので、その便利さもあります。最近は世田谷区に引っ越しているインド人も結構見られます。二子玉川に本社がある楽天がインド人のITエンジニアをかなり採用しているためです。

 統計を見ると95年以前、日本にインド人は5500人いました。ビジネスマンや飲食店で働いている人たちです。それが、00年に1万人に増えました。コンピューターの「2000年問題」の解決のために、4000人くらいが日本に来た計算になります。

日本に失望するITエリート

── インド人のITエンジニアの実情は。

■00年過ぎは、日本の最終顧客に日本の大手IT企業を通じて、インドのIT企業から人材を派遣するパターンでした。その後は、日本企業が直接、インドのIT企業と契約。第三のステップは、東日本大震災の後、日本の企業が直接、インドで人材を雇う時代が始まりました。

 最近はさらに、日本でインド人の新卒を雇うようになりました。しかし、ほとんどが期間限定か1年の契約社員です。きちんとキャリアプランを提供するとか、昇格昇給をするということがありません。1年目、2年目、3年目は評価が良かったのに、5年目に突然首になってしまう。これは日本の法律では5年以上の継続雇用で無期雇用に切り替える必要があるためですが、インドから来る人たちはそのことが理解できていない。そうすると、「よぎさん助けて」ということになります。

「インドの工科大学はすごい」ということで、いろんな日本企業が工科大学の人材を欲しがります。しかし、90%以上の企業は、その世界トップの人材に何をさせるのかを分かっていない。日本の新卒者と同じような扱いをする。しかし、彼らはエリートです。日本で本当のDXができるかと思ったら、つまらない仕事ばかりをさせられて、飛躍できない。だから、そういう優秀な人材が日本から離れてしまっています。本当にもったいない話です。

(プラニク・ヨゲンドラ 土浦第一高校次期校長)


 ■人物略歴

Puranik・Yogendra

 1977年インド・マハーラーシュトラ州出身。同国プネ大学(数学・経済)卒業、同大学院修士取得(国際経済・労働経済)。97年来日、2012年日本に帰化。みずほ銀行国際事務部調査役、楽天銀行企画本部本部長などを経て、19〜21年東京・江戸川区議。22年4月から茨城県土浦第一高等学校・附属中学校副校長、23年4月同校長に就任予定。全日本インド人協会会長も務める。愛称は「よぎさん」


週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載

インド新興国経済 インタビュー プラニク・ヨゲンドラ 茨城の名門高校にインド人校長 日本の「高度人材育成」に力

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