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教養・歴史 インド新興国経済

インド映画の今 歴史アクション超大作「RRR」が大ヒット 高倉嘉男

世界的なヒット作品となった「RRR」のワンシーン ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
世界的なヒット作品となった「RRR」のワンシーン ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

 年間製作本数で世界一を誇るインド映画。国際市場での存在感も増している。

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 2022年には世界中でインド映画「RRR」が話題になった。大英帝国の植民地時代だった1920年ごろのインドを舞台にしたアクション映画で、インド映画史上最高の製作費7200万ドル(約95億円)をかけた大作だ。インド全土で大ヒットした上に、米国、欧州、日本などで相次いで公開され、異例のヒットになった。ゴールデングローブ賞やアカデミー賞の受賞も期待されている。

 インドは年間製作本数の多さから、世界一の映画大国として知られる。新型コロナウイルス禍前の18、19年には年間2500本前後もの映画が作られていた。インドは23の公用語を持つ多言語国家としても知られ、映画産業は言語ごとに独立して発展してきた。連邦公用語であるヒンディー語、南インドで話されるタミル語やテルグ語などの映画産業が有力で、これらが競い合って映画を作っている。このダイナミズムがインド映画のパワーの源泉であり、世界一の製作本数の主因だ。「インド映画」は、これらの異なる映画産業の総称である。

 世界に目を転じても、昔からインド映画はハリウッド映画に次いでよく見られているとされていた。日本では一時的にサタジット・レイ監督の芸術映画が映画愛好家の間で話題になったものの、インド映画の本流は歌と踊りが特徴の大衆向け娯楽映画だ。特にハリウッド映画が入り込みにくかった旧ソ連圏や中国などで人気を博した時代があった。西側諸国でインド映画熱が本格的に高まったのは21世紀に入ってからだ。

 インドにおいて娯楽映画は長らく「社会悪」として政府から冷遇されており、映画は「産業」として認められていなかった。監督や俳優など、映画に関する職業も公式には「職業」ではなかったし、銀行からの事業者向け融資も受けられなかった。しかし、20世紀末に映画は「産業」化され、法整備が進み、大企業からのクリーンな資金が流れ込んだ。これが映画産業を活気づかせ、グローバル化も急速に進んだ。

 21世紀にまず世界中で大人気になったのは、いち早く国際市場を視野に入れた映画作りに乗り出したヒンディー語映画だった。「きっと、うまくいく」(09年)の成功はそのたまものだ。ハリウッドなど海外の映画に出演するヒンディー語映画俳優も増え、「スラムドッグ$ミリオネア」(08年)などを生んだ。インドの財閥リライアンスとハリウッドのドリームワークスの提携など、インド企業の海外進出も後押しになった。海外ロケが行われるインド映画は昔からあったが、この頃にはインドロケのみの映画の方が珍しくなり、それがロケ地になった国々に、経済力を付けたインド人観光客を呼び込む効果を生んだ。

ウクライナでロケも

 一方、22年の大ヒット映画「RRR」はテルグ語映画である。テルグ語映画の世界的な成功は15年と17年に2部構成で相次いで公開された「バーフバリ」シリーズから始まっており、その勢いはコロナ禍をまたいで続いている。グローバル化し、都市在住富裕層向けの映画作りに傾倒したヒンディー語映画とは異なり、テルグ語映画は大衆向けの豪華絢爛(けんらん)な娯楽映画作りをかたくなに守り、恥じらいなく発展させてきた。コロナ禍が明けた今、それが映画館での特別な体験を求める世界中の観客の嗜好(しこう)に合致し、現在の好調につながっていると考えられる。ちなみに、「RRR」にもウクライナ・ロケのシーンがあり、時事にがっちりはまった。

 テルグ語映画の成功に続けとばかりに、インド各地の映画界も大規模な娯楽映画を次々に公開しており、ヒンディー語映画も巻き返しを図っている。今年はさらに多様なインド映画が世界中で話題になると予想される。

(高倉嘉男・インド映画研究家、私立豊橋中央高校校長)


週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載

インド新興国経済 インド映画 歴史アクション大作「RRR」大ヒットでアカデミー賞期待=高倉嘉男

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