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経済・企業 エコノミスト賞受賞者が考える 日本経済の処方箋

テレワークの利点を生かす働き方で長時間労働の是正を 太田聡一

日本経済の処方箋/4「過労死」や「過労自殺」に発展しかねない長時間労働の改善にコロナ禍が思わぬ効果をもたらしたが、まだまだ働き方改革は途上だ。

 長時間労働の弊害は今や広く知られるようになっている。直接的には、疲労を通じた心身の不調をもたらすリスクが高くなる。既存研究によると、週55時間以上働く場合、週35~40時間の場合に比べて脳卒中のリスクが35%、虚血性心疾患のリスクが17%上昇する。世界保健機関(WHO)の研究者らが発表した最近の論文では、それらの要因によって世界で約74万5000人(2016年段階)が死亡したと推計している。

 日本でも従来、「過労死」「過労自殺」が深刻な社会問題となっており、その対策の重要な柱として長時間労働の削減が位置付けられてきた。また、労働市場で女性がさらに活躍できるようにするためには、男性の長時間労働の削減が必要だという点も指摘されてきた。

 少子高齢化によって将来的に労働力が減少する日本では、労働市場における女性による能力発揮を促進する必要があるが、男性の長時間労働は女性に過度な家事・育児負担を強いることで、女性の労働市場への参加を阻害するというものだ。政府による積極的な「ワーク・ライフ・バランス」の推進には、そのような課題を実現する意図が込められている。

改善傾向に陰り

 実際に日本の長時間労働はどうなっているだろうか。

 図には、週1時間以上働いている雇用者(役員を除く)に占める60時間以上の人の割合(長時間労働者割合)を示している。これによると、長時間労働者割合は13年には8.4%(年平均)であったが、21年には4.8%に低下している。実数では428万人から261万人への実に4割近くの減少となっている。図から、13年以降に長時間労働者割合は傾向的に低下しており、長時間労働削減へ向けての社会の取り組みが明確に読み取れる。

 そして、コロナ第1波で第1回緊急事態宣言が発令された20年4月には、3.6%まで低下した。「ステイホーム」が合言葉のように言われていた時期に長時間労働が減ったのは当然であった。また、20年の4月には時間外労働の上限規制が中小企業にも適用され、月100時間以上の残業ができなくなったことも影響している可能性がある。

 ところが、コロナが落ち着きを見せ始めるにしたがい、長時間労働者割合は低下傾向を示さなくなり、ほぼ横ばいになっている。この理由は明確ではないが、コロナ禍で残業が大きく減ったために、企業がそれ以上の取り組みへの必要性を感じにくくなったのかもしれない。

 実際、週35時間以上働いている雇用者のうち、35~43時間という法定労働時間当たりの人々が占める割合は、20年初頭の約50%から緊急事態宣言が発令された同年4月に一気に60%に上昇し、最近ではおよそ55%前後で推移しており、コロナ前よりも高い水準を維持している。コロナが終息しない中で、従業員に長時間労働を求めにくい雰囲気が生じたことや、出張がウェブ会議に代替されることで移動時間が大幅に節約されたことなど、要因はいくつか存在するだろう。いずれにせよ20年4月…

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週刊エコノミスト

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