米国の経済安保志向は「貿易による平和」の終わりなのか 岩田太郎
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米国が第二次世界大戦後に一貫して主唱してきた「貿易による平和」による世界秩序が、国防を通商に優先する米国自身の「経済安全保障」で揺らいでいる。
キャサリン・タイ米通商代表は、2022年12月21日付の米経済ニュースサイト「マーケットプレース」のインタビュー記事で、世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会がトランプ前政権の対中鉄鋼・アルミニウム関税をWTO協定違反と裁定したことに言及。「この決定は、ある国家の安保上の判断について合理的な根拠なく口出ししたもので、誰がそうした判定を下したのか、非常に注意深く考える必要がある」とWTOを批判した。
ニューヨーク市立大学のポール・クルーグマン教授は12月13日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿し、「そもそも『貿易による平和』を掲げて戦後の世界貿易システムを創設したのは米国であるのに、米国自身が安保を理由に新たな通商制約を設け始めた。トランプ前政権なら歴史的な例外と片付けることもできようが、経済や歴史を理解しているはずのバイデン政権がそうした姿勢を引き継ぐのは不思議だ」と発言した。
さらにクルーグマン氏は、WTOの前身で、1948年に創設された関税と貿易に関する一般協定(GATT)が平和と繁栄を希求したものであったことを解説。「最近の流れは、戦後の『貿易による平和』の終わりを意味するのか。そうではないが、ロシアや中国の動向を見れば、『貿易による平和』が民主主義国家同士にしか通用しないことが分かる。ましてや、国際主義を信奉するバイデン政権の高官も自信をなくしているくらいだから、(世界貿易にとり)大きな変化だといえる」と締めくくった。
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週刊エコノミスト
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