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原発の「カウントストップ問題」 曖昧すぎ混乱引き起こすリスク 村上朋子

南海トラフ地震の想定震源域内にある静岡県の中部電力浜岡原発。政府の要請で2011年5月、全面停止した
南海トラフ地震の想定震源域内にある静岡県の中部電力浜岡原発。政府の要請で2011年5月、全面停止した

 原発の長期停止期間を運転期間から除外する仕組みが新たに導入される。しかし、安全審査を早々にクリアして再稼働した原発ほど“年齢が進む”ことになる。

安全審査を早々にクリアした原発ほど“寿命が延びない”仕組み

GX実行会議で発言する岸田文雄首相(左から2人目)。原発政策の大転換をなぜ急ぐのか
GX実行会議で発言する岸田文雄首相(左から2人目)。原発政策の大転換をなぜ急ぐのか

 世界でも類を見ない、原発の“年齢計算”を巡る考え方の大転換が2022年末、政府によって方針決定された。国のエネルギー政策を扱う経済産業省の「基本政策分科会」が12月16日、今後の原子力政策に関する「行動指針」をまとめ、同22日には、政府の脱炭素戦略の司令塔となる「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」でも報告・採択された。

 政府や規制当局も、原発を実際に使う電力会社も、そして立地自治体も、これまで原発の運転期間(人間でいえば年齢)は「営業運転開始日」(人間でいえば誕生日)から一律に起算してきた。そんな中、今回の行動指針では、安全審査などによる長期停止期間を「運転期間」から除外するという仕組みを導入した。つまり「長期停止の間は原発の年齢は進まない」。いわゆる“カウントストップ”だ。

 背景には、東日本大震災後に導入された原発の運転期間を「原則40年、最長60年」とする現行制度の大枠を残した上で、新ルールによって実質的に60年超の運転を可能としたい政府の思惑がある。原発の新設やリプレースが現実的に難しい中、50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成には既存原発を少しでも残せた方が得策だ。

 具体的には、「特定の事由による運転停止期間については、運転期間に含めないこととする」と指針には明記された。運転期間は、安全対策コストなど、電力会社の経営に直結する大事なものだ。長期運転における全対策工事や定期点検などは、地元経済にも波及し、地元自治体にとっても重要なテーマだ。筆者はこの仕組みは現状では曖昧で、関係者の混乱を招くと考え、現状で想定しうる「年齢計算」を試みた。

 12月16日の分科会に先立ち、分科会の専門委員会となる「原子力小委員会」において、資料に示されたカウントストップの条件は次のⒶ~Ⓒの三つだ。

 Ⓐ東日本大震災発生後の法制度(安全規制など)の変更に伴い生じた運転停止期間、Ⓑ東日本大震災発生後の行政命令・勧告・行政指導などに伴い生じた運転停止期間(事業者の不適切な行為によるものを除く)、Ⓒ東日本大震災発生後の裁判所による仮処分命令など、その他事業者が予見しがたい事由に伴い生じた運転停止期間(上級審などで是正されたものに限る)──としている。

未稼働と5年近い差

 筆者はこの条件を元に、具体的な停止期間として次の①~④を条件として仮設定し、各原発の各号機ごとの「カウントストップ年数」、つまり人間でいえば“加算年齢”を試算した。

 ①除外すべき停止期間には東日本大震災後の停止から再稼働までの日数のほか、テロ対策施設の建設期限に間に合わなかったことによる運転停止、および訴訟の仮処分による運転停止、②大震災以前から停止していた原発については、「2011年3月11日を停止期間の開始日」とする、③22年12月現在ですでに再稼働済み、または23年中の営業運転再開予定が電力会社から公表されている原発(以下、再稼働プラント)の除外すべき停止期間の終了日は「営業運転再開日」とする、④22年12月現在で再稼働の時期の見通しが立っていない原発21基(以下、未稼働プラント)については停止期間の終了日の定義が難しいことから、一律に「23年12月31日を停止期間の終了日」──とした。

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 予想されたこととはいえ、結果は衝撃的だ。再稼働プラント12基の平均カウントストップ期間が7.8年であるのに対し、未稼働プラント21基では12.5年と、5年近い差異がある。九州電力川内原発1、2号機など、18年までに安全審査に合格して早期に再稼働を果たした9基に限れば、カウントストップ期間は6.5年で、未稼働プラントとの差異は倍近くに広がる。

 6.5年となれば現行の運転期間の「最長60年」の1割を超える期間に相当し、原則40年とすればそれ以上だ。加えて、未稼働プラントは実際のところ、23年末に再稼働する可能性はかなり低いものもある。再稼働の日程が後ろ倒しになればなるほど、この定義による未稼働プラントのカウントストップ期間は長くなる。再稼働プラントのカウントストップ期間はこれ以上増えることはないため、両者の差は広がる一方だ。

いつの間にか根拠変化

 つまり、安全審査などを早々にクリアして再稼働にこぎ着けた原発ほど、“年齢が進んでいる=寿命が延びていない”のだ。これまでは「営業運転開始日」という、誰が見ても分かりやすい平等な条件での年齢計算だった。停止中の維持管理費が多少かかろうと、運転期間が延びるほど、売電収入はもちろん、定期検査などでの地元への経済波及効果期間も長くなり、維持管理費以上の利益が得られる。それだけに、このようなことが果たして、電力会社や立地自治体など関係者の理解を得られるだろうか。

 また、このカウントストップの考え方を巡っては、もう一つの問題がある。前述したⒶ~Ⓒの条件は、政府や経産省の専門委による議論の過程において、最初からあったわけではない。停止期間を運転期間から除外するという世界に例のない考え方の根拠は、当初は「停止期間中は設備の劣化がないこと」だった。例えば、21年4月14日の第23回原子力小委において、資源エネルギー庁原子力基盤室の皆川重治室長がその旨、述べている。

 しかしながら、大小各種の設備を扱った経験のある者であれば誰でも分かるように、設備は停止中でも劣化する。これを多方面から指摘されたためかは定かではないが、22年9月22日の第31回原子力小委の資料4で「運転期間に対する基本的な考え方」として、「他律的な要因に基づく停止期間などの考慮」という文言が初登場する。その後、この条件は第33回において「事業者が予見し難い、他律的な要素による停止期間についてはカウントに含めない」と具体化していく。

 すなわち、議論の過程のどこかでカウントストップの根拠が、「設備が劣化しない」から「事業者が予見し難い、他律的な要素」に変わったのだ。この変化について、筆者の知る限り少なくとも公開の場や公開資料では何ら説明されていない。

 一方、カウントストップの根拠に「設備が劣化しない」を相変わらず挙げる有識者もいる。例えば22年12月18日のNHK番組「日曜討論」では、今後の原子力政策について意見を求められた西村康稔経済産業相が、運転期間の考え方に際して、そうした趣旨の発言をしている。

運転期間「上限」の意味

 もし「停止中は設備が劣化しないこと」がカウントストップの根拠になりうるのなら、それは停止要因が他律的だろうが自律的だろうが関係ないはずだ。一方で、「事業者が予見し難い、他律的な要素」をカウントストップの根拠とするならば、例えば原発建設後に指摘された「原子炉建屋直下の活断層の有無」のような、極めて技術的な要素に対する議論に要した期間に対しても、カウントストップ対象にすべきだろう。

 つまりは、この二つの根拠を巡っていまだに整理がついていない状況で、そのどちらにするかによっても、原発の年齢計算は大きく変わってくる。

 カウントストップの定義を巡っては、以上の通り少し考えただけでも幾通りもの解釈が生じてしまう。その曖昧さが、電力会社からみた予見性をかえって損ないかねないという指摘は、すでに第33回や第34回の原子力小委でも出ている。だが、これに対する明確な解決策は示されないまま方針として決定されようとしている。

 原子力小委の事務局資料でも繰り返し紹介されてきた通り、日本以外の原子力利用国は、原子炉の運転期間について特段の上限を設けていない国が多い。それはこのような構造物の技術的な耐用年数について世界で確立された基準がまだないからで、各国とも一定の間隔で定期的な安全審査を課すことで安全性を担保している。

 日本もそれにならうことで何の不都合があるのか。実務の現場に大混乱を引き起こすリスクを冒してでも、カウントストップを強行する意義があるのか、関係者には強く再考を促したい。

(村上朋子・日本エネルギー経済研究所原子力グループ研究主幹)


週刊エコノミスト2023年1月24日号掲載

原発の「カウントストップ問題」 曖昧すぎ混乱引き起こすリスク=村上朋子

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