経済・企業

インタビュー「起業家生む発達障害の特性が過労やうつ病リスクにも」岩波明・昭和大学付属烏山病院病院長

 発達障害は天才や起業家を生み出す一方で、中には働き過ぎて病気になる人もいる。本人や周囲は何を心がければよいのか。発達障害専門外来の精神科医・岩波明氏に聞いた。(聞き手=桑子かつ代・編集部)

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 発達障害は、脳内の神経伝達物質のアンバランスが原因で生じると考えられている、生まれながらの特性です。その主要な疾患として、不注意さ、多動、衝動性などがみられるADHD(注意欠陥多動性障害)と、対人関係が苦手で特定のことに強いこだわりを持つASD(自閉症スペクトラム障害)があげられます。このような発達障害では、知的障害がないにもかかわらず、仕事や生活面で困難が生じます。例えば、物忘れやミスが多い、衝動的な行動や特定のことに熱中し過ぎる、対人関係で適切な対応ができずに周囲を混乱させることなどがみられます。

 最近はADHDやASDの著名人が注目されています。米実業家イーロン・マスク氏はASDを公表していますが、実はADHD的な行動パターンが顕著です。楽天の三木谷浩史会長は自らADHDであると公言しています。レオナルド・ダビンチやピカソもADHDと考えられます。アインシュタインはASDの可能性があり、台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タン氏も数字やデータに非常に高い能力を持つとともに、コミュニケーションに不得手な面があり、ASDと思われます。

 社会に大きな変革をもたらす人は、元来高い能力を持っているわけですが、発達障害を伴うとそこにプラスアルファとして、爆発的な行動力が加わります。思考があちこちに広がる「マインドワンダリング」という特性は、創造性と結びつくものです。またASDは、一般の人とは違う視点を持っています。例えば、彼らは会話しているときに、通常は相手の顔を見て話すところを、人の顔と風景を一体的に、俯瞰(ふかん)して捉える見方をするのです。

 一方、ADHDにおける過剰集中と行動力が前向きに働かない場合、「はまりやすい」特性は依存症の危険因子になりえます。例えばインターネット依存、ギャンブル依存、アルコール依存などです。発達障害でうつ病などの併存症が重症な場合や、自傷行為がみられるケースでは、入院治療を行うこともあります。

マルチタスクは苦手

 発達障害は軽症の場合は周囲も気付きにくく、大人になるまでは何とかやってこられたという人も少なくありません。当病院を受診する人には、有名大学の学生、弁護士や医者、大手企業やメガバンクに勤める人、芸術家など、高い能力を持つ人たちもみられます。自分はどこか変だなと感じていろいろな病院を受診し、「何でもない、気のせい」などと言われて納得できずにこちらに来るケースも見受けます。

 能力のある人たちは、管理職の候補生として、次第に会社からより多くを求められてきます。仕事の幅が広がり、対人関係が苦手という特性から他の人たちとの調整がうまくいかず、失敗や不適応が目立つようになるのです。それでも過剰に頑張ると余力がなくなり倒れてしまうこととなり、私のところで診察を受けるまでにうつ病で2回休職したという人もいました。

 仕事で重要なのは、まず本人が自分の特性をよく知ることです。自分の苦手なこと、得意なことは何かを自覚すると、ずいぶん違ってきます。ADHDでもASDでも、複数のことを同時に進めるマルチタスクが苦手で混乱しがちです。口頭での指示が定着しないことも多く、ひたすらメモを取っている人もいます。本人と周囲が協力して、苦手な状況にならないように、職場の環境を工夫することが大切です。(談)


週刊エコノミスト2023年2月7日号掲載

発達障害 インタビュー 岩波明 昭和大学付属烏山病院病院長 天才や起業家生む特性 過労やうつ病リスクも

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